中編

□寄り添うべきは……
1ページ/1ページ


【R side】


 あかねの様子がおかしい、と気が付いていた……でもまさか、自分が原因だとは思わなかったんだ……。


最近、三人娘はおれに、あからさまなアタックをしなくなっていた。
少し落ち着いたかな、という程度の変化だけど。
ただ、あからさまなことはしなくなっていても、メシを持ってくることは相変わらず多かった。

シャンプーの中華はババア譲り、文句なしに美味い。
うっちゃんは店を出せるだけあって、どのお好み焼きにもハズレがない。
まあ小太刀の作るものは怖くていまだに手をつけられないけどな……。

おれは勝手に納得していたことがある。
三人がそうなったのは、おそらく呪泉洞での出来事が原因。
間近で見ていたシャンプーは特に、おれのあかねに対する気持ちや態度が変わっていることに気が付いたんだろう。

あかねはそんなに気にしてもいないだろうけど……。
おれは帰国してから出来る限りあかねのそばに居るようにしていた。
あんな風にあかねを失うのはゴメンだから。
あかねを失いたくないから、だからおれがそばにいよう、と決めたんだ。
そんなおれに、うっちゃんと小太刀も何かを感じ取ったに違いない。

三人娘との攻防が落ち着いたのなら、もうなにもおれたちを遮るものはない。
これからゆっくりあかねと…………。


……そう思っていた矢先の出来事だった……。








「……倒れた?」

道場で汗を流していたおれに声をかけたのは、なびきだった。

「最近、ちょっと元気がなくてね。気が付いてたんでしょ?」
「そりゃ、まあ……」

あかねが倒れた、という事実は驚くほどにすんなりとおれの心に入ってきた。
それほどまでに最近のあかねの様子はおかしかったから……。

「まあな、メシもほとんど食わねえし、なのに運動だけは欠かさなかったし。毎日、寝不足気味の顔してたしなあ。あれじゃあ倒れても……」
「違うわよ」
「へ?」

違う?なにが?

「食べてなかったのも、運動を欠かさなかったのも、寝不足だったのも……原因はちゃんとあるのよ」
「なんだそりゃ?」
「それはあたしから言うわけにはいかないわね」
「金とるのかよ!?」
「……あのね、どういう目であたしを見てるわけ?」
「……」

はあ、とため息をつくなびきにおれは違和感を感じた。
いつもならこういう時、絶対に情報を売ろうとするからな。
なんで今日はそれをしないんだ?

……まさか、まさか……そこまであかねの体調がおもわしくない、なんてこと……!?

「……とにかく、あかねとお父さんが東風先生のとこにいるわ。乱馬くんも……」
「ああ、わかってる。ちょっと行ってくる」
「……素直なとこもあるのにね……」
「はあ?」
「なんでもないわ」
「?」

なんだ?
……ま、とにかくあかねのとこに行かなきゃな……。









「え……」

東風先生の言葉が、ズシンと心の奥底に落ちていく……。

「これ以上は、ね……学校に行っても……」

まともに授業すら耳に入らないだろう、と……東風先生は、そう言った。

「う、うそだろ……」

さっき隣の部屋で見たあかねの姿が目に浮かぶ。
青白い顔で点滴を受けながら眠る姿が……。

「な、なんでそんな、そこまで……」
「うん、きっと相当無理な生活をしてきたんだろうね。栄養も足りない、睡眠も足りない、それに……」
「それに?」
「……なにか思いつめているみたいだよ?」
「なにかって……」

なんだよ!?
なにをそんなに思いつめる必要がある!?

「乱馬くん」
「なんだよ、おじさん?」

難しい顔をしたおじさんがおれの後ろから声をかける。

「あかねは……静養が必要なんだ」
「静養って?」
「しばらく学校を休んで、知り合いが持ってる別荘へ行かせようかと思っているよ」
「別荘って、どこだ!?」
「……聞いてどうするのかね?」
「……ひ、ひとりで行かせるわけにもいかねえだろ……」
「……」

あかねをひとりにしたくない。
今の状態のあかねを放っておくなんて……。

それに、あかねと離れた後の自分を容易に想像できるんだ。
きっとおれは、あかねのことを考えて考えて考えて……狂っちまう……。

「おれが行く。あかねと一緒に行く」
「……なびきを一緒に行かせようと思っているんだがね。女同士の方がなにかと……」
「なびきが一緒でもいい、おれも行くからな!」
「……そうか」

そうだ、おれは絶対にあかねを失うわけにはいかないんだ!





【N side】


「あたしは行かないわよ」

乱馬くんに少し遅れて小乃接骨院に足を踏み入れたあたしが耳にしたのは、お父さんの台詞だった。
あかねの静養にあたしに同行しろって?
冗談じゃないわ、あたしが一緒にいたってあかねの問題は解決しないわよ。
お父さん、そんなこともわからないわけ?

お父さんがひとりになった瞬間を狙って、あたしはお父さんにそう問いかけた。

「女同士も何も、お父さんだってあかねが倒れた原因くらいわかってるんじゃないの?」
「……最初からなびきを同行させようなんて思っとらんよ」
「……ならいいけど」

まったく、お父さんったらあたしをダシに使ったわね。
高くつくわよ?

「それよりなびき」
「なに?」
「なびきはどう思う?あの二人を一緒に静養に行かせて……あかねは元通りになると思うかね?」
「わからないわよ、そんなこと」
「……」
「ま、乱馬くん次第、ってとこね」

乱馬くんはわかっているのかしら?
あかねが倒れた原因を、あかねが思いつめていることを……。

乱馬くんを見ていれば、あかねへの態度の変化は明らか過ぎる。
好きで好きで、心配で心配で仕方ないようね。
あの三人娘を振り払ってあかねのそばにいることも多い。

……でも、それはあくまで第三者視点に過ぎない。
あかね本人はきっと気付いてもいないでしょうね。

それに……もともと素直じゃないあの二人。
そばにいる時間が増えれば増えるほど、喧嘩も多くなる。
乱馬くんは喧嘩したってあかねのそばにいるというだけで安心してるんでしょうけど。

……あかねは、そうじゃない……。

喧嘩のたびに乱馬くんの口から発せられる言葉は今までとなんら変わりは無い。
それがどれほどあかねの心を傷つけているのか、どうしてわからないんだろう?


……乱馬くん。
身体だけが近くにいたって、心が伴わなければ意味が無いのよ?
早く気がついて欲しいと思う。


あかねが本当に壊れてしまう前に……。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ