中編

□お友達大作戦♪(完結)
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【Y side】

 それはいつもの放課後、いつもの喫茶店。

……に、いるのは。

「なんであんたたちまでいるのよ?」
「いいじゃん、話し相手がいた方がいいだろー?」
「いらない」
「おいおいっ、クラスメイトになんてこと言うんだよっ」

あたし、ゆか。
それから、いつも一緒に帰宅してるさゆり。
……そしてなぜか、クラスメイトのダイスケ&ヒロシ。
地味で目立たない2人セットの男子……って、そんなこと言ったらあたしとさゆりだってそうなんだけど。
だってしょうがないじゃない?
学校ではいつもお騒がせな2人と一緒なんだもの、そりゃ地味に見えるわよね?

「なーんかさー、おれらっていつも目立たねえじゃん?」
「乱馬くんと一緒だからでしょ?」
「そうそう!別におれらだってそんなに見た目悪くはないと思うんだけどな」
「…………」
「そこっ!同意するか突っ込むかしろよっ!」
「じゃ、否定してあげる」
「するなっ!」

おお、このノリツッコミ!
ヒロシとさゆりってば意外といいコンビなんじゃ?

「上級生も下級生も乱馬乱馬言いやがってよ。乱馬を理由に振られた奴がこの学校に何千人いるか……」
「全校生徒そんなにいないけどね」
「わかってるよっ!言葉のアヤだ、アヤ!」
「でさ、結局乱馬くんってどうなの?あかねのこと、どうするつもり?」
「そうそう、それ!どうなの!?」

わかってるわよ、乱馬くんがあかねのこと大好きだっていうのは。
だけどね、いつもいつもあの三人娘にちょっかいかけられて、あかねがどんな思いをしているか……。

「いやー、乱馬も結構色々考えてるみたいだぜ?はっきりとは言わないけど。でも、あかねってほら、天然というか」
「あ、そうね」
「だからさー、どうも逃げられてるんじゃないかと思うんだよ、あかねに」
「え?逃げる?あかねが?」
「いや、あかねはそんなつもりないんだろうけど。ただタイミングが合わないだけじゃないか?」
「ふーん……」
「あーあ、乱馬があかねとはっきりしたら、乱馬のこと諦める子もいると思うんだけどなあ」
「なんだ、ヒロシの好きな子って乱馬くんファンなのね」
「いや、別に」

え?そうなの?
話の流れからてっきりそうだと思ってたんだけど。

「ただ、ちょーっと可愛い女子にチヤホヤされたいなーとか……」
「最っ低……」
「なんでだよっ、男なんだからそれくらい考えたっていいだろー!?」

男って馬鹿ねえ……。

「そうだっ!おめーらさ、ちょっとあかねをその気にさせてくれよ」
「はあ?」
「だからっ、あかねに乱馬を誘うように言ってくれって」
「無理に決まってるじゃない。あかねが自分から乱馬くんを誘うように見える?」
「……見えないな」

あ、でも……。

「ちょっと乱馬くんをドキッとさせるようにはできるかな?」
「え、マジ?どうやって!?」
「あの2人ってまだなにもないんでしょ?」
「乱馬の反応を見る限りは……多分」
「じゃ、間違いないわね。あかねの反応も同じだから。だから……」
「へ?……おう、うん、それで?…………ゴニョゴニュ……うんうん、で………………」

コソコソ、と話し合うあたしたち。
ここは風林館の生徒がよく来るから、誰かに聞かれちゃいけない……。

「よっしゃ!!じゃ、おれらは乱馬のケツに火付けるわ!」
「しっかりやるのよっ」
「まーかせとけって!」

……さーて、キッス大作戦、開始よ!!





【R side】


「……はあ?」


ダイスケの台詞に思わず耳を疑った。

「だからさっ、友達の友達にあかねを紹介してくれって頼まれて」
「……で?」
「いやー、あかねに言えば断られはしないだろうけど、とりあえず乱馬に話通しておくかなーってさ」
「あ、あかねは断るだろ……」
「そうか?付き合いたいって言われるなら断るだろうけど、友達としてならオッケーするだろ?」
「……」

……そ、そうかもしんねえ……っ。

そうだよ、あいつはそういうやつだよっ。
男が友達として女を紹介しろ、なんて言うわけないだろ!?
なのに信じるんだよ、そういうありえない話をっ!

「というわけで、いいよな?」
「いっいいいいいいいいいわけねえだろっ!」
「なんで?あかねとは何もないって、こないだ乱馬が言ったじゃねーか」
「そっ、そりゃ……でもそれとこれとはっ」
「あ、いや、乱馬があかねに本気ならおれだって断るんだけど」
「ほっ……」

ほっ本気…………。

「なんだよ、結局乱馬はあかねを独占した……」
「くねえっ!べべべべべ別に本気なんかじゃねえしっ!?」
「そうか?じゃあいいんだな?」
「う……っ」

おっ……男……あかねが男と……っ。

「でっでも一応許婚でっ、その、一緒に住んでるし、あの……っ」
「……」
「べっ別に独占したいとか付き合いたいとか結婚したいとかそんなことはないけど!?一応立場ってもんもあるし!?」
「……おれ、結婚なんて一言も言ってないけど」
「だ……っだからそれは単なる言葉のアヤってやつでっ」
「ああもう、わかったって。断っとくから」
「……ほ、ほんと?」
「……お前な、そんなにあからさまにホッとした顔するくらい惚れてんなら、さっさとあかねをモノにしろよ……」
「ホッとなんかしてねえっ!」

なんでバレたんだっ!?

「言っとくけど、あかねの性格知って“友達として紹介してくれ”ってヤローは一人や二人じゃないからな。おれは乱馬に話を通すけど、全員が乱馬に言うわけじゃねえよ」
「え……」
「あえて乱馬に話さずに直接あかねのとこに行く奴だっているってことだ」
「なっ!?」
「当たり前だろ?誰が好きな女に近づくのに、わざわざ番犬の前を通るんだよ?」
「おれは番犬じゃねえっ!」
「……別に突っ込んでほしかったわけじゃないんだけど」

でも、そうか……そうだよな。
おれより強けりゃ宣戦布告もするだろうけど、おれより強い奴なんてそうそういねえ。
おれだってあかねを手に入れるためなら……。

……って、違うだろ!?
なに考えてんだ、おれは!?

大体、許婚だし!
手に入れるも何も、すでにおれのもの、みたいな!?

……いやいや、それも違うな……。

「二人がはっきりすれば諦める奴もいるだろうけどさー、いつまでたっても乱馬もあかねもはっきりしないし。こんなんじゃ付け入る隙をうかがいたくもなるわな」
「おっおれのせいだってのか!?」
「だーから、さっさとチューのひとつでもかまして付き合っちまえよ」
「チュ……っ」
「あかねも待ってるだろうに、かわいそうだなー」
「え」

ま、待ってるのか!?
あかねが!?!?!?
だっていつもおれから微妙なタイミングで逃げるじゃねえかっ。

「乱馬も空気読めないから、絶対に良いタイミングを逃してそうだし」
「やっぱりおれのせいかよっ」
「ま、がんばれよー。そろそろ本気にならないと、他の男に乗り換えられるかもな」
「うっ」

も、もしかして……。
そろそろ、本当にヤバいんじゃ……!?

って、どうすりゃいいんだよ!?!?!?

「……すげえ必死な顔してるな」
「そ!?そんなことねえっ!」

ちくしょうっ!
言われっぱなしかよ、おれ!?!?
こうなったら…………。


絶対にあかねをモノにしてやるーーーーーーっっっ!!!!





【S side】


 「……え?」


きょとん、とした顔で私を見上げる。
その目が男心を鷲掴みにするのよっ。

「だからね、他のガッコの友達に乱馬くんを紹介するように頼まれ……」
「なっ、なんで!?」

あーあ、必死な顔しちゃって。

「あかねは知らないだろうけど、乱馬くんって他校の女子に結構人気あるのよ?」
「え」
「そりゃそうでしょ、どんな運動部の大会にだって助っ人で出てきて大活躍するんだもの」
「……」

あ、納得した?
納得はしたけど……。

「み、みんな知らないのよっ。乱馬があんなにクサレ外道だって!」
「……いくらなんでも許婚にそこまで……」
「だって!ほら、あの、ね!?ししし知ってからじゃ遅いじゃない!?」
「……そんなに乱馬くんのこと好きなんだ?」
「ええ!?ちっ違うわよっ!あたしはただ親切でっ!」
「……」

なあに、その焦りようは?

「だって!乱馬のそばにいるって結構大変なのよ!?あの三人には言いがかりつけられるしっ」
「ああ、そうねー」
「大体っ、許婚なのにひどい言葉ばっかり!寸胴だとか不器用だとか!」
「……」
「あたしだって頑張ってるんだから!毎日どれだけ引き締め運動してると思ってるのかしら!?」
「え?」
「お料理だってお裁縫だって、おばさまに毎日教わって……」
「へー、あかね、乱馬くんのために一生懸命なのね」
「え?……ん?ええっ!?!?」

あ、真っ赤。

「ちっちちち違うわよっ!あたしはただっ!」
「そんなに好きなら告白でもすればいいじゃない」
「だっ、だからっ」
「あかねなら、ちょっと擦り寄るだけで効果あるのになー」
「そっそんなわけないじゃない!?相手は乱馬よ!?」

いや、乱馬くんだからこそでしょう?

「ま、いいわ。とりあえず紹介するってのはナシにしとくわね」
「あ……」

あらま、あからさまにホッとした顔しちゃって。

「ね、ほんとに告白しちゃったら?」
「しないってば!」
「もうっ、ムキになることないのに」
「ムキになんてなってないもん」

そんな真っ赤な顔して何を言ってるんだか……。
でも、タイミングは今ね!

「いいもの、あるんだけど?」
「……え?」

あ、反応あり!

「ジンクスとかおまじないならあたしは……」
「違うわよー。そうじゃなくて、これ!」
「?」

私があかねに渡したのは、1本のリップ。

「なあに、これ?さゆりの?」
「私のだけど、あかねに貸してあげる」
「どうして?」
「実はコレ、結構いいものなのよ?」
「???」

さあっ、いくわよっ!

「売り文句は“ぷる唇で彼をゲット!”」
「……なによ、そのチープな売り文句?」
「これがね、私もチープだと思ったのよ、最初は」
「……最初?」

食いついたっ!

「でもね、初めてこれを付けて出かけたときのことよ」
「何かあったの?」
「なんと!この私が1日で3人にナンパされちゃったのよっ!」
「……」
「今までナンパなんて一度もされたことないのに!しかもっ!」
「しかも?」
「そのうちの1人がね、もうすごく好みだったのっ」
「へえ、よかったじゃない。で?」
「電話番号交換して、今でも連絡取り合ってるわ」
「へえ!」

あ、言っておくけどこれは事実よ?
このリップ、魔法でもかかってるんじゃないかと思ったもの。

「だからっ!あかねに貸してあげる」
「え、い、いいわよ。そんなに大事なものならさゆりが……」
「やあねえ、あたしはもういいの」

そうよ、ちゃんと彼をゲットしたんだから。

「これ付けて、乱馬くんと二人っきりになれる状況を作るのよ」
「ええ!?あたしが!?」
「そうよっ、進まなきゃいずれ誰かが乱馬くんに他の女の子を紹介しちゃうわよ!?誰かに取られちゃうわよ!?」
「う……っ」
「はっきりとは言わなくたっていいのよ。ただ“好きな人がいる”って言えば大体わかるでしょ?」
「……」

乱馬くんてばナルシストだもんね。
あかねがそんなことを言えば必ず“おれのことだっ!”ってなるわよ。

しかもこのリップ。
実はグロス効果で本当に唇が艶プルになるのよねー。
そんな唇のあかねに見上げられでもしたら!?
乱馬くんのことだから、きっと我慢きかないわっ。

「わかった!?」
「う、うん……」

よしっ!完了っ!
無理やり押し付けた感が大きいけど……。

もしあかねが言えなくても、言おうとする努力がきっとかわいいと思うのよね。
モジモジしちゃったりして。
どきどきすること間違いなし!

たとえ言葉にならなくても、2人きりでそういう雰囲気になればオッケー!
あとは……。



ダイスケに火を付けられている(はずの)乱馬くんっ!
頑張るのよーーー!!!!
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