短編

□買い物予定は未定です
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【A side】


 ……あたし、ちょっとおかしいんじゃない……?


「……どうしてこんなの買っちゃったのかしら……」

あたしは自分の手にある薄桃色の布地を見てつぶやいた。

今日は乱馬が修行から帰ってくる日。
修行に出る前、あたしを寸胴だって散々言ってたから……気合を入れてダイエットしたのよっ。

見て、このくびれ!
バストアップ体操だって役に立って……るような気がしないでもない。
ヒップアップだって頑張ったのよ!?
二の腕も……うん、上出来!

だからちゃんと体の線が分かるように、って服を買いに行ったの。
綺麗なラインのワンピースか、ショートパンツか……。

……と、思っていたのに。

「……これじゃあ見せられないじゃない……」

はあ、とひとり溜息をついた。
だって、コレ!
ありえない……ありえないわ、我ながら……。

あ、決して安物な訳じゃないのよ!?
コレ、それなりにイイお値段したんだから!
だからもちろん身に付けるわ!

……でも……。

「……はあ……」

もう……あたしってほんとにバカ……。
かわいいし、これなら体の線も出るし!

……って、そんなの関係ないわよ、これじゃあ!

「ああもう……どうしてこんなの買っちゃったのかしら……」
「なに買ったんだ?」
「きゃあああああああああっっっっ!?!?!?!?!?!?!?」

ななななななななななっなに!?何事!?
なんでここに乱馬がいるのよっ!?!?

「な……っなんなんだよ一体!?突然叫ぶなっ」
「ああああああああああんたっ、なんでここにいるのよっ!?」
「なんでって……今日帰ってくるって言ってあっただろ?」
「う、あ、そ、そうね……」

そ、そうよ……今日帰ってくるって……。

「って!ノックくらいしなさいよ!」
「したぜ、窓」
「ま……っ」

窓……っ。
玄関というものを知らないのかしら。この男は!?

「で?なに買って後悔してるんだ?」
「きゃあっ!ちょっと見ないでっ!」
「なんだー?おれに見せられないものなのか?」
「う……っ」

みっ見せられないなんて言ったら絶対に無理やりにでも見ようとするわ……。
どうしようかしら……ええと、ええと……。

「随分小せえな。帽子?ああ、もしかして水着とか?そっかーそりゃ寸胴じゃあ後悔もす……」
「このっ、ばかあああああぁぁぁっっっっっっ!!!」

どごっ!という音と共に乱馬が床に沈む……。

こんなに変わったと思ったのに!
まだ足りないのかしら!?
それとも……え、乱馬、巨乳好き!?!?!?
そういえば心当たりは無いでもないわ……。

「……あのなぁ……」
「なによっ」
「帰ってきたってのにおかえりも無しかよ?真っ先にココに来たってのによ」
「え……」

乱馬のやけに素直なセリフにドキリとするも、ああ最近の乱馬はこうなんだった、と思い直す。

数ヶ月前、乱馬に告白されて。
そのすぐあとにはキスして……。

でもそこからの進展は、ない……。
……そうか、あたし……もしかして“期待”してた、のかな……。
だからコレを……。

布地をしっかりと握り締めた手を見た。
きれいな薄桃色のレースがのぞく。

……かわいかったのよね……。
こんなつもりじゃなかったけど、本当はもっと違うものを買おうと思ってたけど。
これを身につけたら、少しだけは……進展しちゃうかも、なんて……。

「……乱馬のためじゃないもん……」
「なんだ、俺に見せたかったのか?」
「だからっ!」
「お前、わかりやすいんだよ。ったく……見てやるからよ、さっさと着てみろって」
「いやっ」
「あのなっ」

意地を張るあたしに呆れたようにため息をつく乱馬。

あたしだって見せたいわよ!
なんのためのダイエット!?
乱馬のためよ、間違いなく!
こんなに成果が出てるんだって教えたいわよ!
だっだけど……っ!

「これは、その……」
「とりあえず見せてみろよ」
「いやよっ」
「……なんだよ、まったく……」
「ら、乱……」

少しだけムッとした顔で立ち上がった乱馬に、これじゃいけない、とあたしも立ち上がった。
待ってたのに、乱馬に会うのを楽しみにしてたのに、喧嘩なんかしたくないっ。

「あのっあのね?」
「んだよ?」
「だから、あの……いつか、ね?」
「はあ?いつかっていつだ?適当なこと言ってんじゃねえよ」
「ちっ、違…………っきゃあっ!」
「おいっ!?」

背を向ける乱馬を追おうと手を伸ばしたそのとき、足がもつれてそのまま乱馬に倒れこんでしまった。

しっかりした胸板に、筋肉質な腕に抱きとめられて。
くらり、と頭が回る……。
大好きな感触に思わず目を閉じた……。

「あかね?大丈夫か?」
「あ、う、うん……」

乱馬の言葉に返事をするも、あたしはぼんやりと乱馬のぬくもりを感じていた。
乱馬に跳ね除けられないことに安心して、そのまま身を預けるように乱馬に寄りかかった。

「……会いたかったんだから……」
「知ってる」
「ばかっ」
「俺だって同じなんだぜ?」
「知ってるもん」
「じゃ、お前もばかだ」
「うるさいわねっ」

きゅ、とチャイナの裾を握ると、あたしを抱きしめる乱馬の腕に力が入った。



…………ん?



裾を……握っ……!?



「あれ?落ちたぜ?」
「……あっ!?だっダメっ!」

うっかり取り落としてしまったそれに、乱馬に見られちゃいけないと手を伸ばす、も……。
ひょい、と素早い動作で乱馬に拾い上げられてしまった。

「ちょっ、返して!!」
「!?!?」

思わず力いっぱい乱馬からそれを奪った、けど。

「おま……っそ、それ!?」
「……っ」
「み、水着、じゃ……ねえ、よな……?」
「しっ……知らないっ」

真っ赤な顔でぱくぱくと魚のように口を開け閉めする乱馬に。
これまた真っ赤であろうあたし。

「……それ、おれのため……!?」
「ちっ、違うって言ってるじゃない!」
「……」

あああああっもうっ!
絶対絶対ヘンな女だって思われてるわ!
もしかしたら……ドン引きしてるんじゃ……。

あたしの手の中で丸まったその布地。
それは、きれいな色したレースの下着……。

「かっかわいかったからっ!だから買ったの!それだけよっ!」
「……俺に見せたくて?」
「だから違うってば!」
「……」
「ら、乱馬?」

恥ずかしくて逸らしていた目を、そっと乱馬に向けて……驚いた。
深い深い色の瞳が、見たことが無いほど真剣にあたしを見つめていた。

「あかね」
「な、なによ……」
「それ……下着、だよな……?」
「っ!!」

バレてるっ!!やっぱりバレてるわっ!
そりゃあわかってたわよっわかってたけどっ!
でもでもでもでもっっっっ!!!!

「らっ、乱馬のためじゃ……っ」
「いいのか?」
「ない……って、え?」
「いいのかよ!?」
「なに、なんのこと……?」
「俺……もっとお前に近づいてもいいのか!?」
「え……」

近づく、って……え!?まままままままさか!?

「あかねっ」
「え?え!?えええっ!?ちょ、ちょっと待……っ!」

ドサリという音とともに、あたしの体が柔らかなベッドに押し付けられる。

「らっ乱……っ!?」
「……逃がさねえ……」
「……っ!!」

息も出来ないほどの、深く熱いキス……。
あたしは……久しぶりに会う乱馬のぬくもりに、熱に、においに……どんどんと、酔っていった……。















「乱馬のばかっっ!!せっかくかわいい下着買ったのに!着る前に進んじゃうなんてっ!」
「……だから……我慢なんて出来ねえんだって……」
「ばかあああああっっ!!」



……どこまで進んじゃったかは、ナイショです……。


…完…

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