短編

□告げるのは!?〜あVer. 〜
1ページ/2ページ

【A side】


 12月23日。
 明日で2学期が終わり、そんな放課後のことだった。


「こ、告白したいの……」
「え!?」

……告白したいのはあたしじゃない。
ゆか、だ。

「だってクリスマスなのよ!?」
「ま、まあ……」
「あかねはいいわよ、家に帰れば愛する人と一緒なんだもの!だけどあたしはこのままじゃ独り寂しいクリスマスなのよーっ!」
「ちょ、ちょっと!?愛する人ってなによ、愛する人って!乱馬はそんなんじゃっ!」
「誰も乱馬くんなんて言ってないけど?」
「……」
「って、あかねのことはいいのよ、相思相愛なんだから!」
「……」

そ、相思相愛……もうっ、あたしと乱馬はまだそんなんじゃないんだからっ。
……まだ、ね……。

「で?相手は誰?」
「あ、あのね?サッカー部の3年の……」
「わかった!副部長の!確か相模先輩、だっけ?ゆか、サッカー部を見に行くと必ずあの先輩を見てるもんね」
「あ、バレてた!?」
「そりゃあね、わかるわよ」

なるほどね……気にはなってたのよ、ゆかが相模先輩を見てるの。
ただの憧れなのか、恋なのか?
どうやら本気だったみたいね。

「あたし、協力しようか?」
「さすがあかねっ!!そうなのよ、お願いしようと思ってたの!」
「ま、まあ……あんまり期待されると緊張しちゃうけど」
「ありがとーっ!計画は出来てるの!お願いねっ!」
「……あ、最初からあたしを巻き込むつもりだったわけね……」

まあ……いいけどね……。

「あかねも告白しなよっ!」
「え!?」
「だって一緒に住んでて相思相愛なのに、お互いに気持ち伝えてないんでしょ?」
「そ、相思相愛って……」
「クリスマスまでになんとか!で、ラブラブな聖夜を過ごすのよっ!」
「……ラブラブ、ねえ……」

あたしと乱馬でラブラブ、なんて……夢のまた夢、だわ……。













「……は?」
「だから、明日!サッカー部の練習後に相模先輩を中庭に呼び出して欲しいのよ」
「なんで?」
「それはコクハ……じゃなくて!あんた、ここ最近ずっとサッカー部の助っ人に借り出されてるじゃない?」
「ああ、大会が近いから……って、お前、今なに言いかけた!?」
「ななななんでもないわよっ。とにかく明日!お願いね!」
「あ、ちょっ……!?」

何か言いたげな乱馬に背を向け、あわててその場をあとにした。

いけないいけない、ちょっと口走っちゃったじゃない!
乱馬のことだもの、ゆかが相模先輩に告白するなんて知ったら、きっとポーカーフェイスが出来なくて変に思われちゃうわ。

……あたしが先輩を呼び出そうか?ってゆかには言ったんだけど。
ゆか以外の女の子の呼び出しだと思われたくない、ってことで……。
まあそりゃそうよね、あたしだって他の女の子が乱馬を呼び出したらイヤ……って、あたしのことはどうでもいいんだけど!?

とにかく、ゆかに言われた“協力”はちゃんとしたわよ!?
あとは……頑張れ、ゆか!!







【R side】


あいつ、何を言いかけた!?
コクハ……“く”、だよな!?
どう考えたってそうだよな!?

は!?え!?
あいつが……相模先輩に!?
告白!?告白だって!?!?!?

ちょ…………っっっっ。

「っっと待てーーーーーいっ!!!!」
「やかましいっ!!」

どげしっ!と親父の肘鉄を受けるも、どうにもこうにもそっちに頭がいかねえ!

どういうことだよ!?
なんで!?
なんであいつが相模先輩に!?

おれ……っ、おれ、許婚じゃねえのかよ!?

考えろ考えろ!
おれ、なんかしたか!?
いやいやいやっ最近は喧嘩だってしてないし、別に怒らせるようなこともしてないよな!?
助っ人してるから下校は一緒じゃないけど、毎日一緒に登校してるし!
今朝だって普通に一緒に登校したぜ!?

大体、あかねが相模先輩を好きなんて、そんな素振り全然なかったじゃねーかっ!
なんでそんなことになってるんだよ!?
あかねが相模先輩を……っ……。



…………うそ、だろ…………?



おれは……あかねには不要だ、ってことか……?









翌日。
いつもと変わらない登校、いつもと変わらない授業、いつもと変わらない……助っ人。
のあと、あかねに言われた通りに相模先輩を中庭に呼び出した。
でも……“あかねが呼び出した”なんてことは言えなかった……。




おれはあかねのそばにいたはずなんだ。
誰よりもそばにいて、誰よりもあかねを、あかねだけを見ていた。

なのにおれは、あかねの心を掴むことができなかったのか……。
いや、掴んでいたつもりだった。
ちゃんと掴んで、絶対に、絶対に離さないつもりだったのに。

……情けねえな……。
どんなに強くたってどんなに女に追いかけられたって、好きな女ひとり、捕まえられないなんて……。

挙句、同じ学校の奴に持っていかれる、なんてな。
あかねは……おれじゃない、他の男を選んだのか……。





一足先に帰宅したおれは、しっかりと帯を締めて道場にいた。
ギュッと帯を締めるときには心までしっかりと引き締まる気がする。
真っ白な胴着で体を動かすと、それだけで自分が清められていく気がする。
……でもそれは、あくまで“いつもは”のこと……。

「……ダメだ、全っ然集中できねえ……」

なにやってんだ、おれは?
強くなって世界を回る、そのために今まで鍛えてきたはずだろ?
女ひとり手に入れられなかったからって……ここまでダメになっちまうなんて、な……。

稽古に集中できない、精神統一も出来ない。
あかねと出会う前のおれには……戻れないのか……?



ガラッ……――



「あ、ここにいたのね!」
「……あかね」

帰ってきたあかねを見てどきりとした。
……告白、してきたのか……?

「今日はありがとう、上手くいったわ」
「……そうかよ」
「お礼に今日の宿題写させてあげる。寝る前にあたしの部屋に来てね」
「……ああ」

他の男と上手くいったなんて話を聞かされるのかもしれない、そう思っていてもおれはあかねの誘いは断れない。
あかねと二人きりになれるチャンスを……逃せない……。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ