小話

□モテるのは!?
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【A side】


 乱馬を信じたあたしが馬鹿だった……。


校長先生がいなかったおかげで、スムーズに進んだ終了式。
教室に戻ってきて、成績表を受け取って……見ずにしまおうとした乱馬から取り上げて確認して。

「……んだよ」
「あんた……体育以外、全部赤字じゃない……よくこんなに赤点取れるわね?すごいわ、2、2、2、2、2、10、2、2、2、2」
「大声で読み上げんなっ!」

1が赤点落第。
2が赤点、追試合格。
つまり乱馬は体育以外、全教科の追試を受けたってことになる。
まあ1がないから落第の危機は免れているわけだけど、それでも……。

……冬休みいっぱい、補習決定……。

「あんた、理系も文系もあったもんじゃないわね」
「おれは体育会系だ!」
「……体育だけじゃ卒業できないわよ?」

なによ、もうっ。
せっかく2年に進級して、やっと最近付き合い始めたっていうのに。
これじゃあ冬休み中、全然出かけられないじゃないっ。

「だーいじょーぶだって。補習、午前中だけだし」
「……」

なによ、あたしの気持ちを汲んだつもり?

「大体、全部2って……動物の群れみたい。よく全部追試受かったわね?」
「ったりめーだっ!なんのためにいつもあちこちの部活の助っ人してると思ってんだ?」
「……え、ちょ、まさかこのため!?」

ええ!?
そっ、そりゃあサッカー部の顧問は数学の先生だし!?
バスケ部は英語……あ、テニス部は現国っ!
ええと、あとは……ああっ!乱馬の苦手な化学はハンドボール部の顧問じゃない!

「あんた……勉強して追試受けたわけじゃないの!?それってズルいわよ!」
「ズルくねえよっ、勉強したからな」
「……いつよ?」
「んー?いつだったかな?」

こんの……体育バカっ!







「よーしっ!終わった終わった!あかね、帰りに肉まん買って帰ろうぜーっ」
「……あんた、食べることばっかり考えてるのね……」
「あ、ちょっとあかね!見て見てコレ!」

HRも終わって立ち上がったあたしと乱馬を呼び止めたのは、ゆかとさゆり、そしてダイスケくんにヒロシくん。
雑誌を囲んでなにやら楽しげに話をしていた。

「見て見て、ちょっと面白いわよー」
「なあに?ええと……『モテる男の特徴はコレだ!』!?」
「ふーん?おれのことか?」
「……間違っても乱馬には当てはまらないわね」
「なんでだよっ」

このナルシストっ!

……とはいえ。
進級してからの乱馬のモテぶりは確かに異常な気がする……。
同級生はもちろん、下級生も上級生も。
普段の運動部の助っ人に加え、体育祭や校長主催のばかばかしいイベントでも、乱馬はいつも飛びぬけて目立つから……。
……でも、あたしが彼女だってみんなわかってるはずなのにな……。

「なになに?『その1・女性に対して優しい』?うん、確かにおれは優しい男だぜ!」
「あんたは優しいんじゃなくて優柔不断なだけよ」
「なにおう!?」

だってそうじゃない。
告白を断って泣かれたら……泣き止むまで、その子のそばにいるもの……。
それは優しいからじゃない、どうしていいのかわからなくてオロオロしてるだけだわ。

「『その2・出会ったときから気軽に話ができ、心の距離を感じさせない』?……おれは?」
「気軽で気安かったわね。傍若無人すぎて呆れたわ」
「……」

そう、気軽なんじゃなくて、気安すぎるのよ。
もうちょっと初対面の人に対する礼儀ってものを覚えたほうがいいんじゃないかしら?

「で?『その3・友人が多く、人間関係が広い』……まあ、修行であちこち回ってたからなあ」
「……はた迷惑な人間関係も広がってるわよね」
「なんだよっ、いい奴だっているんだぜ!?」

ま、良牙くんあたりは確かにいい人よね。
……ちょっとおかしなところもたまにあるけど……。

「『その4・会話の引き出しが多い』…………会話の引き出し?ってどういうことだよ?」
「……あんたの場合、引き出しはひとつだけだわ」
「はあ?」

まったく、引き出し、って意味から説明が必要なのかしら?
乱馬の引き出しなんて格闘以外に開いたことが無いじゃないの。

「あとは?『その5・聞き上手』?」
「ああ、あんたはそれ、論外よ」
「……そっ、そうなのか……?」

あら、そこに関しては自覚があるのかしら?
やっぱり、って顔をしてるわね。

「つ、次は……『その6・いつも自然体でガツガツしない』……お、おれは……?」
「自然体でガツガツしてないわよー。いつでも傍若無人」
「……あのよ?」
「なによ?」
「さっきから出てきてるその“ボウジャクジブン”って、どういう意味なんだ?」
「……」

ボウジャクジブンじゃなくて、傍若無人よ!
……と、突っ込む気にもならないわ……。

「……少なくとも褒め言葉ではないわ」
「……」

あらやだ、ちょっと落ち込んじゃったかしら?
だからってそんなに泣きそうな顔しなくたっていいじゃないの。
ここはちょっぴり元気付けてあげようかな?

「あとは?えーと……『その7・はっきりした得意分野がある』!?あら、これなんて乱馬、ぴったりじゃない」
「え!?そうか!?」
「そうよ!だって……」



「乱馬、体育バカだしなー」
「だなっ!これほどはっきりしてる得意分野はねーよっ」



……か、格闘、って言いたかったのに……。

ダイスケくんたちの言葉に、わなわなと顔をこわばらせる乱馬。
ちょ、ちょっとかわいそうになってきた、かも……。

「どっ、どうせ……どうせおれは体育バカだよっ!悪かったなあああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
「あっ!?ちょっと乱馬っ!!」

教室を(窓から)出て行く乱馬に、ゲラゲラと笑い転げる友人たち。

「うわははははははは!絶対こうなると思ってたんだよー!」
「絶対にあかねったら最後には乱馬くんの機嫌直そうとするのよね」
「で、乱馬にうまく伝わらなくてあいつがスネるんだよなーっ」
「……わかってるならちゃんと伝えさせてよ……」

もうっ!
帰ってから乱馬の機嫌とるのあたしなんだからっ。

「じゃ、あかね!あとはよろしくな!」
「一晩かけて乱馬くんの機嫌直すのよー」
「もうみんなっ、人事だと思って!じゃああたし、帰るわね!」
「冬休み中に電話するからねー!」
「うん!またね!」

乱馬のあとを追うべく、あたしは教室をあとにした。
その後の友人たちの会話を知らぬままに……。








「……あかね、否定しなかったわね?」
「ああ、なに言われたかも気付いてなさそうだったな」
「わざとあかねに突っ込んで欲しくて言ったのにーっ」
「“一晩なんてかけないわよっ!”って?ふふっ、きっとあかね、本当に一晩かけるつもりなのよねー」
「……ま、乱馬が一晩で済むなんて考えにくいけどな?」
「そりゃそうだ!」




あははわはは、教室に響く笑い声にあかねと乱馬が気付くことはなかった……――



…完…

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