小話

□ベタ・ベッタ!
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【A side】


「……なんでここにいなきゃいけないわけ?」
「知るかよっ、お前こそなんでこの部屋にいるんだよ!?」

強い口調で、でもヒソヒソと会話をするあたしたちがいるのは……道場の隅にある物置。

まったく、乱馬って相変わらず自分勝手ね!?
小太刀に“ぜひ私と美しい年明けを”とかなんとか言われて追いかけられてるくせにっ。

「あたしはここの物置を整理してただけよっ」
「はあ!?今頃!?」

……だってなんだかんだ家中の大掃除なんて、そうそう進むわけないじゃない!?
結構広いんだからね、うち!
やっと道場にまで手が回ると思ってやってたのに!
なのに三人娘に追いかけられてばかりで手伝いもしない乱馬が、今になってそんな事言うなんて!

「あたし関係ないじゃない!離してよっ!まだ道場の掃除が……」
「しっ!きたっ!」

狭い物置の中、あたしを抱える乱馬の腕に力が入る。

「乱馬さまああああっ!かくれんぼはお止めになってくださいまし!小太刀はここですわああああっ!」

……いつもいつも、なんでこの状況でかくれんぼなんて言葉が出てくるのかしらね?
どう見たって逃げてるじゃないの……。

遠ざかっていく小太刀の声に、乱馬がホッとしてあたしから手を離した。

「ったく、なんで最後の最後まであいつらに追いかけられなきゃなんねーんだよ……」
「あら、シャンプーと右京がお店を開いてるから、1人だけでまだマシなんじゃないの?」
「嫌味かよ?かわいくねーなっ」
「ええ、可愛くない許婚で悪かったわねっ。じゃ、あたしは掃除を続けるから」
「は!?もう年越しの時間だぜ!?」
「え!?もうそんな時間!?」
「ああ、さっきなびきが紅白の勝敗が決まったって言ってたから」
「ああもう……あんたの追いかけっこに巻き込まれて全然進まなかったじゃない……」

もう年越しの時間……大掃除、終わらなかったな……。

「とにかく、あたしもう出るわよ。ここにいたってしょうがないもの」
「まっ、まだ小太刀がいるかもしれねえだろ!?もうちょっと隠れてろよっ」
「なんでよ!?あたし、関係ないじゃない!」
「いいからっ」

ぐい、と乱馬に引っ張られて、結局また同じ体勢に。
はあ……とため息をついた次の瞬間、あたしは気が付いた。



……閉ざされた真っ暗な空間の中。
乱馬に抱きしめられたままで……新しい年を迎えるの……?



ドキドキドキ、気が付いた瞬間からあたしの心臓は激しく動き出す。
暖かいのは乱馬に抱きしめられているから。
熱いのは……あたしが、乱馬を求めているから……?

「……あかね」
「っ」

ふと頬に触れた乱馬の手に導かれるように、少しだけ目線を上げた。

「……乱馬……?」
「……」

暗闇でも分かる、乱馬……きっと、赤い……。



ふわり……――



唇に温かい柔らかな感触、そして…………遠くから聞こえる、お父さんたちの新年の挨拶…………。





「……今年も、よろしく……」
「……今年は……」
「?」

一瞬だけ、言葉を閉ざした乱馬。
そのあとに続いたのは……。




「……も少し先まで……よろしく……」
「!!」


……今年は……少しだけ、期待して過ごそうかな……?




…完…

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