小話

□これもスイートバレンタイン?
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【Y side】


 こっ、これは……!!


2月15日。
修行帰りに寄った天道家の前。
目の前に差し出されたピンクの箱に、思わず胸が高鳴る。

これはいわゆる……ばっ、バレンタインチョコ、では……!?
しかもっ!
あああああああ蒼依ちゃんからのっっっ!!!

「もうっ、悠牙ったら!バレンタインに間に合わなかったじゃないっ」
「え、ご、ごめんよ……」

そう言って頬を膨らませる蒼依ちゃんは、文句なしにかわいい。

……まさか……まさかまさかっ!
蒼依ちゃんはおれを待っていたのか!?
そうか、そうなんだな!?

「こ、これをおれに!?」
「そうよー、昨日からずっと待ってたんだから」
「!!」

まっ間違いないっ!!
蒼依ちゃんはこのおれにっ!
あああああああ愛の告白をっっっ!!!

手作り感満載のそのラッピングはおそらく蒼依ちゃん本人が施したもの。
ということは中身も……。
そうだっ!中身も手作りに違いないっ!

やはりこれには蒼依ちゃんの愛がこもっているんだ!
胃薬は常備してる!
いつでも食える!!

「あっ、ちょっとこっち!」
「!?」

しーっ、と艶やかな唇に人差し指を立て、蒼依ちゃんはおれの袖を引っ張った。
そのまま引きずられるように近くの公園へ……。

って!
蒼依ちゃん!?
おれを公園に連れ込んで何をしたいんだ!?
も、もしや……ナニ……!?!?

おおおおおおおっっっ!!!
体力ならあるぞっ!
いつでも蒼依ちゃんを悦ばせ……。

「……牙っ!悠牙ったら!」
「……はっ!」

いかんいかんいかん!
おれとしたことがいらぬ妄想をっ!!
蒼依ちゃんはまだ17じゃないかっ!
7つも下なんだぞ!?
せめてハタチになるまではっ!

「聞いてる!?」
「きっ、聞いているともっ!」

ああ、蒼依ちゃんっ!
そんな拗ねたような目でおれを見上げないでくれ!
どうにかなってしまいそうじゃないかああああっ!!

「ね、これあげたこと、お父さんにはナイショね?」
「……はい!?」
「だってお父さん、あたしが誰かにチョコをあげやしないか、って昨日はずっと気にしてたんだもの」
「……へえ……」
「さっきだって急に気配がしたし。急いで出てきたけど、バレてないかしら?」

……乱馬おじさんらしいな……。

「お父さんとお兄ちゃんにはチョコあげたけど、悠牙は別!ねっ?」
「!」

にっこり。
ああ、天使の微笑み……。

ん?べっ……別って……!!

「べっ別ってことは、その……っ!」
「悠牙だってわかってるでしょ?」
「わっ、わかってる!ああ、しっかりわかっているとも!!」

やはりそうか!
これからおれは蒼依ちゃんと2人で人生を生きていくんだなっ!!



……ドドドドドドドドドドドドドドドドド……ッッッッッ!!



……ん?
な、なんだあの音は!?
そして……なんだこの異様な殺気は!?!?!?!?

「ゆーーーーーーーーーーーがああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
「らっ……乱馬おじさん……っっっ!?!?」

うわあああああああああああっっっ!!!
らっ乱馬おじさんが来たーーーーっっっ!!!

ものすごい勢いで、ものすごい砂埃を上げながらおれと蒼依ちゃんの間に大きな身体が入り込んだ。

「蒼依っ!悠牙にチョコやったのかっ!?!?」
「え!?ええ、そうよっ、いいじゃないの別にっ!」
「別に、だああああ!?!?」

うおあああっ、もっものすごい怒りのオーラがっ!

「悠牙ああああっ!」
「はっ、はいっ!」
「受け取ったのか!?」
「え、ええ、そりゃ、まあ……」
「なっ、なんだとおおっ!?」
「ぐえっ!」

くっ苦しい……っ。
そんな力いっぱい胸倉を掴まなくてもっ!!

「ちょっとお父さんっ!やめてよ、そこまですることないじゃない!」
「そっ、そうですよっ!蒼依ちゃんはおれに……っ!」
「あ゛あ゛っ!?!?」

こっ、怖い……っ!
怖い、がしかしっ!
おれは蒼依ちゃんの気持ちを踏みにじることは出来ないんだっ!

「乱馬おじさんっ!おれは蒼依ちゃんを……っ」



「もうやめてよっ!」



蒼依ちゃんの叫び声に乱馬おじさんが息をのんだ。

「お父さん、いい加減にしてよっ」
「蒼依……本気か!?」
「なによそれ?」
「だってお前、悠牙に……」
「そうよっ、チョコあげたわよっ!いいじゃないの、それくらい!」
「それくらい!?」



「友チョコくらいで大騒ぎしないでよねっ!」



「「……は?」」

い、今なんて……?

「お兄ちゃんにもお父さんにもちゃんとあげたじゃないっ、まだ足りないの!?」
「……い、いや……」

いや、いま話しているのは足りるとか足りないとかじゃなく……。

「お前、友チョコ……?」
「え?」
「“友達”用のチョコ、か……?」
「それ以外になにがあるの?」
「……」

かくり、おれの膝が崩れ落ちる音がする……。

「お、おい、悠牙?」
「と、友達……」
「おーい、悠牙ー?」

……ああ、景色が白い……。








「あーあ、白目になっちまったよ」
「どうしたのかしら、悠牙?」
「……おれ、ちょっと悠牙に同情するよ……」
「どうして?」
「……お前のそういうとこ、お母さんにそっくりだな……」
「え?」




――……おれの春はどこにあるんだ……――




…完…

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