GIFT

□結論は真夜中に
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【S side】


 『乱馬さまと憎々々々しい天道あかねがどこまで進展しているか、調べてくるのです!』


……拙者は佐助、九能家お庭番でござる。

先の命を小太刀様より下されたのは、昨夜のこと。
乗り気ではない命令でも従わなければならないのが忍びというもの……。
拙者は今日の朝早くから天道家に張り付いていたのである。


……しかし。
朝の教室での寝言。

『おめーがなかなか寝かせてくれな……』

下校後のかすみさまの言葉。

『乱馬くんは鍛えているんですもの、底なしなのはわかるんだけど……どうしても声が気になってしまうのよ』

更にはパーティーを抜け出した2人の会話、乱馬殿のあの台詞。

『          』

ん?聞こえない、と?
ではそこは想像していただくとして……。

どこをどう考えても、拙者にはすでに男女の関係が出来上がっているとしか……。
さてさて、どうやって小太刀様にご報告すればいいのやら……。

ヘタに真実を伝えようものなら、小太刀様のことだ、大暴れするであろう……当然、とばっちりを食うのは拙者であるからして。
なんとか小太刀様の怒り(大暴れ)を避けてのご報告が出来ぬものか……。



ん?
あかねさまの部屋でなにやら動きが……。
午前1時、こんな真夜中に何事でござるか?



あかねさまの部屋の窓からそっと中を覗くも、カーテンが閉まっていて中の様子を窺い知ることは出来ない。
だがしかし……窓の隙間からなにやら会話しているような声が漏れてくる。
……もしや……。


「もうっ、教室で寝るのやめなさいよね」
「だってねみーんだもん」
「あんな寝言っ、今度言ったら踵落としだからねっ」
「おお、こえー。っちゅーか今日だってしっかり気絶させてくれたじゃねえか……」


……確かに。
あの一撃はなかなかだったでござるよ?


「しっかし……良牙の野郎は一体どこに行ったんだろうな?」
「いつもみたいに泊まっていけばいいのに……あら?」
「なんだ?」
「そういえば良牙くん、いつもどの部屋に寝てるの?乱馬の部屋?」
「…………」


良牙殿といえば確か……そうそう、子豚になってあかねさまと一緒に……。
そうか、あかねさまは良牙殿が変身体質なことを知らないのだな?
……そうでござろう、知っていれば殿方と一緒に寝ようなどとは思わないだろうから。

「あ、ちょっと!こんなとこで寝ないでよっ」
「いーじゃねえか別に」

……ん?

「もうっ、みんなが起きる前に部屋に戻りなさいよっ」
「へーへー。ほら、お前も早く来いって」
「しょうがないわね……」
「待ってたくせに」
「待ってないもん」

……んんんんん!?!?!?
い……っ、今の会話は一体!?!?!?

「あったけー」
「あたしは湯たんぽじゃないわよっ」
「湯たんぽよりも柔らけえよ」
「……」
「別に太ってはいないって」
「失礼ねっ」

え、ええと……とりあえず乱馬殿はあかねさまと肌を触れ合わせている、と……。
ま、間違いないであろうな……???

「……今日ってさ」
「え?今日?」
「気付いてねえの?」
「なにに?」
「……いや、なんでもねえ。それより、さ?」

???
乱馬殿?どうなされたか?

「んー、あかね……」
「ちょっ、やんっ、乱馬っ」
「いいだろ?昨日は三回だけだったんだし」
「十分じゃないっ」
「じゃねえよっ、どうせなら心行くまで、っちゅーか……」
「寝られないじゃないのっ」

な、なにを……っ。
拙者、ここにいてもいいものかどうか……!?

「あ、ちょ、ちょっと待ってっ」
「んー?」
「シャワー!浴びてくるっ!」
「いいって、んなもん」
「良くないのっ」
「ちぇーっ」

あかねさま……さっき入浴してきた気が……。
あ、いやっ!覗いてはいないでござるよ!?
さすがにそこまでは拙者も……っ。

「乱馬っ」
「んー?」
「……待っててね……?」
「……ったりめーだろ」

ほおおおっ!
あっあんな甘えたような声で“待ってて”なんて言われた日にはっ!!
ああああああっ、顔が見えないのが残念至極……っ!





「……なーにやってんだ?」
「っ!!!!」






耳元の声に驚いて振り返ると……。
いつの間にか開いた窓から顔を覗かせた乱馬殿が拙者の方を見ていた。

「ら、乱馬殿……」
「朝っぱらからずっと張り付きやがって。なにしてんだよ?」
「き、気が付いていたでござるか!?」
「おれを誰だと思ってんだ。気が付かないわけがねえ」
「……さ、さすが……」

拙者としたことが……まだまだ修行が足りていないとみえる……。

「大方、あの変態兄妹にでも命令されたんだろ」
「へ!?」
「おれとあかねの進展具合。調べてくるように言われたんだろ?」
「な、なんのことやら……」
「まあいいさ。調べようとどうしようと、おれとあかねの関係は変わらねえ」
「と、申しますと!?」
「……」

重要っ!!
これこそが小太刀様の知りたかったことでござる!!

「どっちに命じられたか知らないけどよ」
「……」
「おれとあかねの間に入り込むような隙はねえ」
「ず、ずいぶんとはっきり……」
「お前、朝からずっとおれたちの近くにいたんだろ?だったらわかったんじゃねえか?」
「そりゃ、まあ……」

たとえばこの2人の間の距離が1mとして。
同じ1mの距離に乱馬殿と小太刀様がいたとしても、この2人の雰囲気にはならない。
それはおそらく、シャンプーさまでも右京さまでも変わらない。

けれどもこの2人は……たとえ10mであっても1キロであっても、極論を言えば地球の裏側であっても。
精神的な距離は変わらないだろう。

「あの変態兄妹に言っておけ。小太刀が俺に言い寄ったって無駄だし、九能先輩があかねに言い寄るのならおれが全力で排除する、ってな」
「……乱馬殿」
「なんだ?」
「はっきりしましたな」
「はあ?」
「少し前までの曖昧さが嘘のようです」
「……気持ち、決まったからな」
「……」

男らしくなられた……。
そうか、小太刀様はこの態度の変化に気が付いたからこそ、真実を拙者に探らせたのか……。

「乱馬殿」
「あ?」
「伝言、確かに承りました」
「ああ」
「それからもう一つ」
「?」

ひとつ、男としてどうしても気になることが……。

「先ほど、あかねさまがシャワーに行かなければ……情事を拙者に見せ付けることになっていたのでは?」

そう、朝から拙者の存在に気が付いていたのなら。
先ほど情事に及ぶときにも分かっていたはず……。

「ばーか。おめーなんかに見せるかよ」
「し、しかしっ」
「あいつはいつもああだよ。必ずシャワー浴びに行く。わかってたことだ」
「そ、そうでござるか……」

なるほど。
あかねさまの一挙手一投足、すべてが乱馬殿の頭の中に、か……。

「……では、失礼」
「おお、気をつけて帰れよー」

ピシャリ、とまるで“邪魔だ”とでも言うかのように閉められた窓にカーテン。
拙者は頭一つ下げて帰路へついた。





……ん?
ああああああああああああっっっ!!!
結局、小太刀様になんと言えばいいのかっっ!?!?!?

…………ああ、また小太刀様の八つ当たりの対象にされてしまうのか…………。

拙者も幸せになりたいのう…………。



…完…

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