お題
□お題○鈍感な彼のセリフ○
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☆ 一口くらい、いいだろ
「うひーっ、さみぃなあ」
「おかえりー、待ってたわよ♪」
「頼んだもの、ちゃんとあったかしら?」
買い物袋片手にコタツに入るとあかねとなびきがすり寄ってくる。
と言っても、2人の目的は俺じゃない。
「そうそう、これこれ!悪いわね、乱馬くん」
笑顔で言うなびきの手には、今冬新発売のホットティー。
「あった、これ美味しいのよね♪ありがと、乱馬」
上機嫌なあかねは、ホワイトコーヒー缶。
ババ抜きで負けた俺は2人におごってやるハメになり、さらに買い出しまで。
パシリかよっ。
なびきにゃともかく、あかねには勝てると思ったのに。
そんな俺は適当にカフェオレ。
あったかけりゃ何だっていいや。
「さて、私は宿題でもしながら飲むわ。じゃあね、お2人さん」
なびきが居間を出る。
あかねは……ここで飲むみたいだな。
「ホワイトコーヒーって最初は何かと思ったけど、すごく美味しいのよ」
「牛乳の率が高いだけのコーヒー牛乳じゃねえの?」
「違うわよ、甘くないもん」
「牛乳沸かしてインスタントコーヒー入れれば?」
「そうそう、そんな感じ!……って、ミもフタもないこと言わないでよ……」
ぶ、と口をとがらせるあかねを見ながら、俺はカフェオレを一口。
「……げ、甘ぇ……」
「あんた、甘党じゃない。甘い食べ物は良くて、飲み物はダメなの?」
「甘いのは好きだけど、いくらなんでもコレはなぁ……」
そう、いくらなんでも甘過ぎる。
甘過ぎて逆に喉が乾いちまう。
「あかねの、くれよ」
「ええっ!?いっ嫌よっ!」
「なんだよ、甘くないんだよな?一口くらい、いいだろ」
ホワイトコーヒー缶を奪って飲む。
ああ、口の中が中和されていく……。
「もうっ乱馬っ!」
「なんだよ、ケチケチすんなよな」
真っ赤な顔で怒ってやがる……。
そんなに全部独り占めしたかったのか?
なんて言ったら殴られそうだな。
「さて、道場でちょっと体動かしてくるわ」
「ちょっとっ、宿題やったの!?」
「あとあと」
「……見せないからね」
「……やっぱケチくせー……」
「なんか言った?」
「べっつにー」
道場で汗をかき、風呂に入る。
すっきりして脱衣場を出たところで、なびきに呼び止められた。
悪どい顔して俺を見てやがる……なんだってんだ?
「乱馬くん、さっきはやけにあかねと仲良さげだったわねえ」
「さっき?コーヒー飲んでただけだろうが」
なびきがニヤリと笑って差し出す紙を受け取った。
1枚目は、あかねがホワイトコーヒーを飲んでる写真。
その横にはカフェオレを飲む俺。
別になんてことない写真じゃねえか。
2枚目は、ホワイトコーヒーを飲んでる俺。
横であかねが真っ赤になって怒ってやがる。
これも特にどうってことない。
3枚目は、真っ赤なあかねがホワイトコーヒーを飲んでる。
俺が写ってねえから、道場行ったあとだな。
あいつ、俺が道場行ったあとも怒ってたのかよ?
「これがなんだよ?なんもやましいことはないぜ?」
「あらそう?3枚まとめてお買い得価格、3千円にしようと思ったんだけど」
「誰が買うかっ!」
「残念ねー。じゃあこれは居間にでも飾っておこうかしら。あとで後悔しても遅いわよ?」
ほほほ、と小太刀バリの笑い声をあげてなびきが去っていく。
一体なんだってんだよ、全く。
そして夕食時、俺はなびきの意図を知ることになる。
「早乙女くーん!これで無差別格闘流も安泰だねえっ!」
「そうとも、天道くんっ!孫の顔を見る日も遠くないよっ!」
「間接キスごときでここまで盛り上がることができるっていうのも、一種の才能かもね」
「なびき、てめえ……っ」
「お姉ちゃんっ!」
真っ赤になって詰め寄る俺とあかねに、なびきがケラケラ笑いながら言い放つ。
「今度からはちゃんと買うのよー」
ちくしょーちくしょーちくしょーっ!!
なびきにしてやられたのも腹が立つがっ!
間接キスだってわかってたら、もっと味わって…………。
って、ちっがーうっ!
身悶える俺にこっそりとなびきが耳打ち。
「あかねが赤くなってたのはね、怒ってたからじゃないわ。照れ隠しよ」
…………なら、いいや。
と思ってしまう俺。
次は狙ってやってみようか?
もちろん!なびきには注意しないとなっ!
お題は確かに恋だった様よりいただきました。