お題

□日常シーン10題 1〜8
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☆ 真夜中の公園




「ったく、なんで俺がこんな時間にコンビニなんて……」

午前2時。
俺は屋根伝いに走りながら誰にともなく愚痴る。
あかねが朝食に食おうと思っていたらしいヨーグルトを、風呂上りに俺が食っちまったのが原因なんだが……。



「乱馬のばかっ!!あれ新製品なのよ!?」
「知るかよっ!冷蔵庫にあったから食っただけじゃねーか!んなに文句言うなら名前でも書いとけ!」
「書いてあったって見ないくせにっ!」
「書いてから言えよっ!」

ビシッ!!とゴミ箱の中の空容器を指差すあかね。

「…………げっ」

間違いなく俺が食ったヨーグルトの容器。


『あかね』


名前書くなんて幼稚園児か、てめーはっ!?
……なんて言ったら殴られるな、間違いなく。

「わっ、わるかった、なっ」
「なにそれ、謝ってるつもり?」
「てめっ、人が頭下げて謝って……」
「誰が下げとるかっ!!!」

どがしゃっ!

「いってえええええ!!」
「ふんっ!」

俺の頭に踵落とし……やるじゃねえか……。
くるりと踵を返して台所を出るあかね。



で、しばらく迷った末に俺は明日の朝食に間に合うようにヨーグルトを買ってくることを決めたって訳だ。
ち、ちょっと長く悩みすぎてこんな時間になっちまったけどな……。

そして一番近いコンビニに到着。

「ね、ねえ……」

そういや容器にコンビニの名前書いてあったな。
ってことはそのコンビニに行かねえと売ってないって事か?
えーと……げっ、一番近いとこでも結構遠くないか!?
近道は……と。

「公園突っ切るのが早いか?」

眠いのを吹っ切るように走っていると、どこかからか聞き覚えがあるようなないような音が聞こえた。

「なんだ?」

思わず足を止めて音がする方へ顔を向けると……。

真っ暗な中、浮き上がる人影。
何かを打ち付けるような音。
人影から何かを唱えるような声も聞こえてくる。
その人影は……明らかに、生気を失っているような雰囲気……。

ぞくっ……。

背筋に走る寒気を抑えて、ゆっくりと近づいていく……。
妖怪退治は武道家の務め!!
いや、妖怪じゃなくて幽霊だったらどうしようもねえが……。



………………ちょっと待て。
あの人影、見覚えがある。
よくよく聞くと、声にも聞き覚えがある。

「早乙女のバカ、早乙女のバカ、早乙女の…………」


「おいコラ、五寸釘っ!!!なーにやってんだ、こんなとこでっ!」
「うわああああっ、さ、早乙女くんじゃないかあっ!元気かいっ!?」
「元気かいっ!?じゃねえよっ」

五寸釘が佇む木の幹には……案の定、俺の写真。

「てめえはっ!変なとこで人を呪うのやめろよなっ」

ったく、こいつは……。
なんだってこんな……時間にこんな場所で俺様を呪ってんだ。

「早乙女が……早乙女が……」
「俺がなにしたってんだっ」
「早乙女が……あかねさんのヨーグルトを食べたんじゃないかああああ!!」
「よっ…………!?」

待て待て待て待てっ!
こいつ、見てたのか!?
どこから!?

この俺に気配を感じさせないとは……。
存在感無さすぎて怖ぇよ……。
でもまぁとりあえず。


「つまりおめーは天道家を覗いてたわけだな?」
「そんな僕は通りかかっただけで……」
「通りかかっただけで台所の中まで見えるかっ!」

往生際が悪い奴……。
と、そこで気がついた。
五寸釘の足元にコンビニの袋。
まさにこれから俺が行こうとしているコンビニだ。

「それ……なんだ?」

まさかと思って慌てて隠そうとする五寸釘から袋を奪う。

「おっ、ヨーグルトじゃねーか」
「そっ、それは僕があかねさんに……」
「ほぉ、おめーがあかねに渡すんだな?家をこっそり覗いてたらヨーグルト食われてたから同じのを買ってきましたーってか?」
「…………うう…………」
「まずいよなぁ?家をこっそり覗くなんて犯罪だよな。しかも女の家だ。知ったらあいつ、怒るだろうなー。一生、口きいてもらえなくなるかもなー?」

五寸釘の顔が変わる。
ムンクの叫びっつーやつだな。

「さっ、早乙女くんっ!このヨーグルトは君にあげるよっ。そう、僕は君のために買ってきたんだよっ!」
「そっかー五寸釘、おめーいいやつだな。サンキュー!」
「いやぁ、気にしないでよ!あはははは……!」

見るからに引きつった笑顔の五寸釘。
ちと可哀想な気もしたが……どう考えても五寸釘が悪いよな、うん。





翌朝。

多少罪悪感を感じた俺は『散歩に出たら五寸釘が持って歩いてたから貰った』とナイスな理由であかねにヨーグルトを渡した。

学校であかねに礼を言われた五寸釘が、すげえ花を撒き散らして喜んでいたのが癪にさわる……。

もちろん、五寸釘への一言は忘れない。

「ヘタな呪いは自分に跳ね返るぜ。俺は呪いなんぞに負けるようなタマじゃねぇからな、気をつけな」


再びムンクになった五寸釘に満足した俺だったが……。
すぐに気がついた。





俺、呪泉郷の呪いにしっかりかかってんじゃねーかっ!!

こりゃ五寸釘の呪いに気をつけなきゃいけないのは俺かもな……。








お題は確かに恋だった様よりいただきました。
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