企画
□○コラボ小説○love story
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【R side】
「あ……っんのクソおやじっ!!」
おれは目の前にある紙切れを凍える手でぐしゃりと握りつぶした。
『重病を患ってしまった。先に山を下りる。玄馬』
重病の人間が、ひとりで山を下りるってか!?
なにが重い病だ、単に寒さに負けただけだろっ!
ったく、いつもいつも……。
……って、おい。
ちょっと待て。
……あのクソおやじ!財布持って行きやがった!!
おいおいおいおいっ!!
あるのはテントとおれのリュックだ……け?ん?
おいコラ、食料まで持って行きやがったな!?
息子を殺す気か!?
ここドコだと思ってんだ!
冬山だぜ!?雪山!!
どうしろってんだよ!?
そういえば麓に温泉街があったな。
……仕方ねえ、このままここにいたら腹も減るし。
あまりグズグズして天気がもっと崩れてきたら山を下りられなくなるし。
とにかく一旦下りて金稼ぐか。
おやじが戻ってくるとは思えねえしな……まったく!
【A side】
「ねっ!?お願い、あかね!」
「うーん……」
ゆかのお願いを、あたしは聞くべきか断るべきかを迷っていた。
「ほんと簡単な仕事なのよ。私だって毎年やってるし。温泉に住み込みなんて、ね、ほらっ、お肌つるつるーっ!」
必死になるゆかには悪いけど、バイトも経験がないのにいきなり住み込みなんて……。
温泉住み込みの雑用係なんて、難しい仕事ばかりなんじゃないの?
「大丈夫!叔母さん、すごくいい人なのよ。なにかあってもすぐフォローしてくれるって」
「だったらゆかが行けばいいのに……」
「だってぇ……」
ゆかが行きたくないっていう理由はひとつ。
彼氏ができたばかりだから。
そりゃあね、わかるわよ。
付き合い始めたばかりで、さらに冬休み!
2人の時間、楽しみよね?
デートしたいって気持ちはわかる……経験はないけど。
遠くで住み込みのバイトなんてしてる場合じゃないって言うんでしょう?
だからってなんであたしなわけ!?
彼氏がいないから!?
悪かったわね、独り身でっ。
……ゆかには言ってないけど、本当はあたしだってそんな気分じゃない。
失恋、したばかりだから……。
ずっとずっと大好きだった人が、あたしのお姉ちゃんと付き合い始めたの。
知ってたわよ、彼がお姉ちゃんを見ていたことくらい。
だけど諦められなくて、ずっと抱え込んでいた。
でも……彼はきっと気持ちを固めたんだ。
だからお姉ちゃんに……そしてお父さんにまでもはっきりと気持ちを伝えに来た。
そんなの目の当たりにしたら、ね……諦めるしかないじゃない?
「はあ……」
「え、もしかしてあかね!?」
「なによ?」
「彼氏でき……」
「いないわよっ」
「じゃ、いいじゃない」
「……」
あのね、バイト出来るか出来ないかの判断は、彼氏がいるかいないかだけなわけ?
家族に確認とか、色々あるんじゃないの?
「結構バイト料いいのよ。厨房覗けるから、料理の勉強にもなるし」
「え!?ほんとに!?」
……思わず身を乗り出してしまった。
お料理、好きなのよね。
ただ……なぜかいつも失敗続き、なんだけど……。
そっか、お料理の勉強になるのか。
……どうしよう、やってみたい……。
お父さん、許してくれるかな!?
「いらっしゃい!あかねちゃんね?ゆかから話しは聞いてるわ。せっかくの冬休みなのにごめんなさいね」
「天道あかねです。どこまでお役にたてるかわかりませんが、頑張りますね」
「難しい仕事ではないんだけど、この時期はどうしても人手が足りなくて……先に入った女の子と同室で宿泊してくださいね。毎日の仕事が終わってからは好きに温泉に入ってもらって構わないから」
「はいっ!ありがとうございます!」
よかった、すごく温和そうな女将さんだわ。
お父さんには料理の勉強になるからってバイトの承諾もらったけど、実は不安だったのよね。
女将さんのあとについて旅館の中を案内してもらう。
大浴場に家族風呂、食事は基本的に部屋食。
宴会場もあるけど、そっちの方は専門の人がいるみたい。
やっぱりお酒が絡むお仕事はハタチ以上じゃないといけないのね。
旅館全体を案内してもらってから、あたしが宿泊する部屋へと行く。
「わあっ、きれい!」
「ありがとう。従業員用だから少し狭いんだけど……同室の女の子は夕食前に一度戻ってくるはずだから」
「ええと、あたしは何を?」
「とりあえず荷物を置いて少し休んでいてね。長旅で疲れたでしょう?そこに従業員用の着替えがあるから着替えてね。あとで同室の子と一緒に厨房にいらっしゃい」
「わかりました」
にこりと微笑んで女将さんが部屋を出て行った。
よしっ、ちょっとだけ荷物整理しておこう。
忙しくなるかな?
頑張らなきゃね!
【R side】
「あー疲れた……」
女の姿で旅館にバイトとして入り込んだものの……。
やっぱり慣れねーことばかりで疲れちまう。
やっぱり男として力仕事してるほうが良かったか?
いや、でも女のほうがバイト料が高いんだよなあ。
さて、一休みしてから厨房行って今日の配膳確認して、と。
あれ?なんか忘れてるような……ま、いいか。
ガチャリ、と部屋のドアを開ける。
「こんにちはっ」
「へっ?」
聞きなれない女の声……え?は!?女!?
「今日からバイトに入る天道あかねです。よろしくね」
「え?……あ」
わわわわわわ忘れてたっ!
そうだっ、今日から相部屋って言われてたんだった!
そうだよ、おれは女の姿でバイトしてるんだから、当然相部屋って女だよな!?
中身が男だから、てっきり来るのは男だと思い込んでいたけど……って、マズくないか!?
「あの、あなたは?」
「え!?おれ!?じゃねえっ、わっわたし!?」
「ええ、名前知らないと不便でしょう?」
「あ、えーと、早乙女らんま、です」
「らんま……さん?ちゃん?んー……あたし17歳。あなたは?」
「お、同じ……17、です」
「じゃあらんまって呼ぶね!あたしのことはあかねって呼んでね?」
「あ、うん……」
待て待て待て待てっ!
いくら姿は女でも、中身は男なんだけど!?
ってわかるはずもないんだけどよ。
でもやっぱりマズくねえっ!?
どうすんだよ、何かあったら!
……って、おれが何もしなければそれでいいだけか。
なんだ、何の問題もねーじゃねえか。
「あなたと一緒に厨房に来るように、って女将さんに言われたんだけど……」
「ああ、夕食前に配膳の確認するんだよ。配る部屋とか人数とか客のアレルギーとか。それから今日の料理に使われてる食材の産地も」
「へー、覚えなきゃいけないことがたくさんあるのね!あたし、アルバイト自体が初めてなの。足手まといにならないようにしなきゃ」
「大丈夫だろ?おれだって覚えられるんだから」
「……おれ?」
「え?あ、わ、私……」
しまったっ、つい素で……。
「お兄さんか弟、いるの?」
「は?」
「だってさっきから男の子っぽい話し方だから……あ、悪い意味じゃないのよ。気にしちゃったらごめんね?」
「いや、うん……まあ、いるよ」
「やっぱり!男兄弟って楽しそうね。あたしは三姉妹の末っ子だからわからないけど、毎日賑やかそうだわ」
「うん、それなりに」
……とりあえず話しを合わせておけば問題ないよな?
どうせ数日間だけなんだし、もう会うこともないだろうし。
よしっ。
夕食前にあかねと一緒に厨房に入る。
昨日まではバイトはおれ一人だったから、一人で全部回らなきゃならなかったけど……今日からはあかねと2人。
役割分担上手くやれば時間短縮できるな。
厨房で部屋の確認をし、食材に関する情報を頭に叩き込む。
順番にお膳を運ぶ準備をし、あかねと一緒に各部屋を回っていった。
ところが……。
「……おめー、食材のこと何にも覚えてねえじゃねーか……」
「う……ごめん、なさい……」
「なんでだ?部屋とか人数は完璧に覚えてるのによ」
「そういうのは覚えられるんだけど……食材は聞き覚えのないものばかりで……」
「ふーん?」
そんなもんか?
まあおれはちっちぇー頃から全国各地回って格闘修行してきてるからな。
食いモンに関しては結構知識があるほうだと思う。
毎日親父と食料争奪戦もしてたしな……。
「ごっ、ごめんね?明日からはちゃんと頑張るから!本当にごめんね?」
「あ?いや、別に……」
別にいいよ、と言い掛けて……おれの体、止まっちまった。
お膳をとるためにしゃがみこんだあかね。
潤んだ目でおれを見上げた顔。
なんちゅーか、こう……。
かっ、かわいくねえかっ!?!?
「ら、らんま……?」
「へっ!?」
やっ、やべえやべえっ!
なに血迷ってんだ、俺はっ!?
「まっまあ初日だしな!?そのうち慣れるって。ほら、次いくぞ」
「あ、はい」
その後は質問はおれが受け付け、あかねはお膳を運ぶことに集中させた。
心臓がドキドキうるさいのは気のせい………………じゃなく!
こいつ!すぐにお膳ひっくり返しそうになったりコケそうになったりするんだよっ!
なんだ!?単に不器用なのか!?
あー、心臓に悪りぃぜ……。
……ただ、ひとつ気になった。
一度キレイにスッ転んだあかね。
いや、お膳は持ってなかったから良かった……けど、問題はそこじゃねえ。
コケた時のあの体勢。
偶然できるようなもんじゃねえ、あれは……。
受身、だ。
あかね、なにかの格闘でもやってるのか?
見るからに細い腕、でも……ちらりと見えたふくらはぎは細いながらもしっかりと鍛え抜かれていた。白くて触り心地の良さそうな足がいつまでも頭から離れな……って、ちっがーーうっ!
あーまったく、いろんな意味で心臓に悪いっ!
「あー気持ちよかった。らんま、本当に入らなくていいの?」
「ああ、部屋風呂も温泉水だしな。今朝入ったからいいよ」
……なんて、お湯かぶったら男に戻っちまうからなんだけど……。
温泉から戻ってきたあかねが布団の上でパタパタと手で顔を仰ぐ。
……あれ?なんかイイ匂い……って、あかねか!?
「気持ちいいねー。働いた後だからかな?あ、失敗ばかりだったけど……」
「あー、まあ、な」
「ごめんね、明日からはもっと頑張るから」
「まっ、あんまり無理すんなよ」
「うん、ありがとうっ」
ふわりと微笑んだあかね。
お?おおっ!?
あれ!?もしかしてこいつ……すっげー可愛い!?
温泉上がりで火照った顔、少しだけ濡れているしっとりした髪、石鹸の香り。
紺の浴衣がほんのり色付いた肌ときれいに合って……って!
ちょっと胸元開きすぎじゃないか!?
そりゃおれとしてはもうちょっと開いていても……って違う違うっ!
こいつっ、男と相部屋って自覚ねえのかよ!?
もうちょっと考え……って、自覚なんてあるわけねえよな……。
こらこらっ、手で胸元開いて手団扇するなっ!
谷間が見えそうで……見えないのがまたそそるんだって!
……そう考えるとこの並んだ布団もなかなかイイ感じ……。
ってーおれはなにを考えてんだっ!
「……どうしたの?」
「い゛っ!?なにがっ!?」
「そんなに頭叩いて痛くないの?」
「へ?」
あれ?そういや痛てぇ……自分で叩いてたのか、おれってやつはっ。
「だっ、大丈夫大丈夫。よし、明日も早いからもう寝るぞっ」
「ああ、電気消すね。おやすみなさい」
「……おやすみ」
その夜。
あかねの匂いにクラクラして、妄想ばかりが頭の中を占めて……寝られない。
かと思いきや。
……なんっっっっじゃ、あの寝相はっ!?
首絞められるわ頭に踵落としされるわ……しかもひとつひとつの技がきっちり決まってんだよ!
ぜってーなんか格闘やってんだろ、あかね!?
ただ……寝技だけはやめてくれ……。
柔らけーしあったけーし……きっちり締めてくるくせに息遣いだけが色っぽいってなんだ!?
なんかすっげーーーー甘い匂いが……っ!
ああああああ、結局頭の中ピンク色じゃねーかっ!
この状況っ!どうにかなんねーもんかっ!?!?