長編

□甘えてみたい
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【A side】

……乱馬のばか。乱馬のばか。


『あの、乱馬?』
『あ?』
『これ……宿題、終わったから……』
『……』


そのまま帰っちゃうことないじゃない……もうちょっと一緒にいたかったのに。
だって気持ちよかったんだもの。
乱馬にもたれて寝入るのも、乱馬の重みも……キス、も……。
……見られちゃったのはかすみお姉ちゃんだったんだから、別に平気なのにな……。

あたしはひとり、悶々として過ごしていた。
初めて乱馬に抱きついた日、それを乱馬が受け入れてくれた日……。
今まではあの3人が乱馬にベタベタするのを見て、嫉妬してるのに上手く言えなくて……結果、乱馬に悪態をついちゃうっていう流れを変えられなかった。
でもあれからあたしは我慢することをやめた。

なびきお姉ちゃんがくれたキッカケ(それがたとえなびきお姉ちゃんの懐を潤すことであっても)があたしを変えたの。
乱馬はあたしを受け入れてくれる。
ほんの小さなことかもしれない、でもそれがすごく嬉しくて……あたし、隙を見つけては乱馬のそばにいることにした。

なのになのになのにっ!


『おおおお俺は別に何もしてねえぞ!?たっ、ただお前が寝ちまったから横にしようと……』


なによそれ!?
そんなにあたし、魅力ない!?
寸胴だって一生懸命腹筋してるのよ!?
バストアップ体操だって毎晩欠かさないんだから!
不器用だって……裁縫もお料理も頑張ってるんだから……。

諦めて目を瞑ったら……キス、してくれたけど……。
すっごく嬉しかった。
乱馬に「好きだ」って言われているようで……ちゅ、と吸われる唇とか絡んだ舌とか、熱くてクラクラして頭の中がとろけていって……。

……続き、待ってたのにな……。



……よしっ!待ってなさいよ、乱馬!
絶対絶対、あたしに目を釘付けにしてやるんだからっ!!



……とはいえ。

【これでオチる!肉食系男子攻略法!】

こんな雑誌買って来ちゃってるあたしってどうなの?
大体、乱馬って肉食系?……違うんじゃない?
でも草食系ではないわよね?
だったらやっぱり肉食……文字通りの『肉食系』だけどね、おじさまとの食料争奪戦を見ていると。

「えーと、なになに?肉食系男子は……清純女子を征服したい感情が起こる?」

清純?清純……ってなに?
雑誌に載っている女の子の写真を見ると、真っ白いワンピースにニットの帽子。
うん、これなら出来そうっ。
とりあえずページ折っておこうっと。

「で……上目遣い?」

鏡を自分の上に掲げて見てみる。
乱馬の身長が大体これくらいだから、普通に立ってる状態だとこんな風に見えてるわけね?
……うーん……よくわからないな。
上目遣いも何も、いつもあたしが見上げてる状態なんだから関係ない気がするわ。

「ん?彼の仲間を褒めてみる?」

仲間を褒める……誰よ、仲間って?
ダイスケ君やヒロシ君は違うわね、友達だわ。
乱馬の仲間……呪泉仲間ならムースかしら?
……シャンプーも?
無理よっ、シャンプー褒めてどうするのあたし!?
よし、次っ。

「え?少しわがままに甘えて困らせる……?」

甘えられて困るの?なんで?どうして?
どうやって甘えたら乱馬が困るって言うのよ?
例題ちょうだいよ、例題っ。
全然わからないっ!
うん、次!

「肉食系男子は自分の外見に自信を持っています……うん、確かに」

ナルシストだもんね、乱馬って。

「だから逆に外見よりも内面の繊細さを褒めましょう……?」

乱馬の内面……繊細さなんて欠片もないじゃない!
褒められないわよっ。


む、難しいものなのね……。
これじゃだめだわ。
参考になるの、洋服だけなんだもの。
……乱馬がこういう服装が好きだなんて聞いたことないけど……。

ああもうっ、今日は寝ちゃおうっ。
考えすぎて変な方向にいっちゃっても困るしね。
さ、お風呂入ってこようっと。



……あたし、雑誌を机に置いて部屋を出た……。





【R side】

「あれ?俺のダンベルどこだ?」
「パフォ」

おやじのプラカードには『知らん』の一言。
おやじじゃねーならなんでないんだ?
いつも部屋に……って、そういやあかねが貸してとか言ってたな。
一番軽いダンベル持って行ったのかと思ったけど、あいつ、重いの持ってったのかよ?
どうすんだ、あんなもん?女が扱うような重さじゃねえだろ。
……ま、あかねは別かもしれないけど。
風呂入る前にちょっと筋トレしておこうと思ったんだけど……あいつの部屋にあるんだよな。
しゃーねえ、軽いダンベルと取り替えてもらうか。

俺はあかねの部屋に行き、ノック……しようとして気がついた。

あかねの部屋に来るの、アレ以来じゃねえ!?
あの……キス、した日……。
もう3日前か?
大変だったんだぜ、あのあと!
なにせ身体がガンガンに反応してたからな。
どこが?とかいう突っ込みすんなよ!デリケートな問題なんだからよっ。
情けなくも風呂で自己処理……元気だよな、俺って……。

落ち着け落ち着けっ、今日はダンベル返してもらうだけ!
それ以外は何もねえっ!
まっ、まあ……あかねがどうしてもっつーんなら、な?
俺だって鬼じゃねえし!
っちゅーかこっちからお願いしたいくらいだし!
ってなに言ってんだ俺は……。

深呼吸してノック。
けど……あれ、いねえ?風呂でも行ったのか?

「あかね?入るぞ?」

カリャリとドアを開けるも、やっぱりあかねはいねえ。
ま、いいや。俺も変な妄想しなくて済むしよ。

さてダンベルは、っと……あ、あった。
床に転がっているダンベル2個。
拾い上げて何気なく見た机の上……にあった雑誌に、俺は固まっちまった。

【これでオチる!肉食系男子攻略法!】

な…………っ、なんじゃこりゃ!?
肉食系男子!?攻略法!?
あいつっ、何見てんだ!?
誰を攻略するってんだ、これでっ!?
肉食系男子……肉食系?

……え、もしかして……俺っ!?

って、違うんじゃねえ?
こういう場合の肉食系男子ってのは、ダイスケとかヒロシみたいに女にガツガツしてるしてる奴のことを言うんだよな?
俺、別にあんなにガツガツしてねえし。
肉食系とはちと違う気が……あ!もしかして!

あかねって実は肉食系男子が好き!?
え!?え!?えええええ!?

あ!?なんか折ってあるページが……なになに?

「肉食系男子は清純女子を征服したい感情が起こる?」

……そんなもんか?
俺、肉食系じゃないから全然わかんねえ……。
あ、でもここに載ってるようなワンピース、あかねが着たら……。

うんっ!イイッ!!すげーイイッ!!

って、ちょっと待ていっ!
なんでこのページ、折ってあるんだ!?
この格好するつもりか!?
誰に見せるつもりだよ!?!?

あああああああああなに考えたらいいのかわかんねえっ!
とっとりあえず!あかねが来る前に戻……って、俺がこの雑誌見たことバレたらやばいんじゃねえ!?
どうヤバいのかわかんねーけどっ!
だっ、ダンベルそのままにしておくか……よしっ、戻るぞ部屋にっ!



部屋に戻った後。
するはずだった筋トレもせずにひたすら【これでオチる!肉食系男子攻略法!】にあった記事を頭の中で繰り返す俺だった……。
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