中編

□お友達大作戦♪(完結)
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【A side】


 真っ白な胴着で拳を足を繰り出す乱馬を、ドキドキしながら見ていた……。


お父さんたちが妖怪退治で出かけ、なびきお姉ちゃんは九能先輩とデート。
おばさまとかすみおねえちゃんは既に寝室で休んでいる。

あたしはそれを確認して、乱馬を追って道場へ向かった。
乱馬にしてはめずらしく、なにやら難しい顔をして“ちょっと汗かいてくる”なんて言ってたのが気になるけど……。

学校でさゆりに聞いたことが頭の中をずっと回っていた。
乱馬が他の学校の女子にまで人気があるなんて……少し考えれば簡単に予想できたはずなのに、あたしはそんなこと考えたことも無かった。
……ううん、あえて考えないようにしていたのかもしれない。
だけど……。

乱馬の横にあたしの知らない女の子がいる……。
それを考えただけで、心臓をぎゅっと掴まれたような、苦しくて悲しい気持ちに陥ってしまう。

最後に乱馬の横にいるのはあたしだと、身勝手かもしれないけれどもそう思っていた。
好きだなんて一度も言ったことがない、言われたこともない。
でも親が決めた許婚だから、許婚という“形“があるから、それだけで安心して……。

でも、違う。
それは違う。

最後に決めるのはそんな不確かな“形”じゃない。
親が決めるわけでもない。

決めるのは……あたしと、乱馬……。

そこまで考えて、ゾワリと背筋に悪寒が走った。
もし乱馬があたしを選ばなかったら?
もし乱馬があたしじゃない誰かを選んだら?
あたしは……乱馬のことを胸に抱えたまま、ひとりで取り残されてしまう……。

本当は、乱馬以外なんて考えられないほどに好きで。
それなのに、言いたくても言えないのは乱馬が悪いから、なんて言い訳をして。
友達の前じゃ自分の気持ちをごまかして。
そんな気持ちを悟られたくなくて、乱馬の前じゃ悪態ばかり。

こんなんじゃ……あたし、乱馬に選んでなんかもらえない……。

乱馬からはっきり言ってくれればいいのに、なんて思っていた。
だけど、そんなのはきっとあたしの我が侭なんだ。
自分から言うこともできないくせに、乱馬には言って欲しいと人頼み。
あたしは……我が侭だ。



道場の外から乱馬の姿が見える。
怖くなるほどに真剣な目で、一心不乱に体を動かしていた。

乱馬に言わなきゃいけない。
あたしの気持ちを、あたしの本心を。
さゆりに言われたあの言葉。

“好きな人がいる”

そう言えばきっと乱馬は自分のことだとわかる。
だってあたしには他に誰もいないもの。
だから、その一言さえちゃんと言えば……。

きゅっと唇にリップを馴染ませる。
ジンクスなんて信じているわけじゃないけど……ほんの少しだけ、乱馬に気が付いてもらえたらいいな、なんて気持ちがあって。
いつもよりもほんの少しだけでいいの、少しだけ……かわいい、って思ってもらえたら……。

スッ、と出来るだけ音を立てずに道場へ入った。
そのまま少しそこで見ていようと思った、けど……。

「……どうした?」
「あ、ごっごめん、邪魔するつもりはなかったんだけど……」

やっぱり気配には敏感なのね。
普段はそんなことないのに、心と体が格闘状態になるとほんの些細なことも見逃さない。
これまでの鍛錬の成果なのね……。

「えっと……お、終わってからでいいよ」
「あとはもう体ほぐして終わりだよ。なにかあったか?」
「あ、えと……」

ど、どうしよう……こんな急に!?

「あかね?」
「……っ、や、やっぱり……っ」
「はあ?」

あ、い、いけないっ。
逃げちゃ駄目よ、あたしっ。
それじゃあ、いつもと同じになっちゃうっ。
ああっ、でも恥ずかしくて乱馬の顔を見られないっ。

「あの……っ」
「?」

タン、と軽い音がした。
俯いたあたしの目の前に、乱馬の足が見える。

ち……っ近いってば……っ。

「あ……あのね!?」
「っっっ!?!?」
「?」

思い切って顔を上げたあたしの前で、乱馬がなぜか大きく目を見開いた。
ど、どうしたのかしら?

「あの……っあたし、あのね?」
「おっおう?」
「あたし……っ」

言えっ!言っちゃえ、あたしっ!



「す……好きな人がいるのっ!」
「!?!?!?!?」






【R side】


 まさかの一言、一体どういう意味なんだよ……!?


一汗かいて、ひとっ風呂。
邪魔がいない今夜、頭をはっきりさせてからあかねの部屋へ行こう。
そして今夜こそ、あかねにちゃんと言うんだ。
他の奴らになんか渡さない、あかねはおれの、おれだけの許婚なんだ!

……と、思っていたのに。
驚いた。
まさか道場にあかねが来るなんて。

で、更に驚いた!

おれを見上げたあかねの顔!
なんだよ!?唇なんかぷるっぷるしてて美味そうだし!
頬が赤く染まって、こっちがドキドキするっちゅーの!

き……っ、期待しちまうじゃねえかっ!!!

「あの……っあたし、あのね?」
「おっおう?」
「あたし……っ」

なんだ?
一体なんなんだよ!?

「す……好きな人がいるのっ!」
「!?!?!?!?」

……はああああああっっっ!?!?

「すっ、好き……な……」
「わっ、わかるでしょう……?」
「……」

な……っなんだよ、それ……。
おれ、ってことはないよな……!?
だったらちゃんと言うだろうし……。

「あの、あのね?」
「……もう、いい……」
「え?」
「聞きたくねえ……」
「……ら、乱……っ!?」
「聞きたくねえよ、んなことっ!!」
「っ!?」


――……ダンッ!!


カアッ!と一気に頭に血が上るのが分かった。

おれはあかねにちゃんと言おうと思っていたんだ。
許婚なんてぬるい関係を終わらせたくて、ちゃんとおれの彼女になってほしいと思って、なのに……っ!

「いっ……た……っ」
「ふざけんなっ!」

あかねの両手首を道場の壁に押し付ける。

「乱馬……!?」
「おれはっ!」

不安げなあかねの顔すらもおれにとっては欲情の対象になるんだな。
そんな関係のないこともちらりと頭を掠った。

「おれは……っ」
「乱……んっ!?」
「……っっっ」

そのふるりとした唇に、噛み付くように唇を合わせた。
何度も何度も貪るように小さく甘い唇を奪う。

「ら、あ、ん……っ」
「あかね……っ」

何も言わせない、何も聞きたくない、ただ今は……。

「……あかねが、欲しい……」
「!!」

息もできないほどのキスを繰り返したあと、ぎゅっと目を瞑ったあかねを見た。
紅潮した頬と半開きの唇が……妙に色っぽい……。

「あかね……」
「……は……っ」

軽く唇を合わせたまま、おれはあかねに問いかけた。

「おれじゃ、駄目か……?」
「乱……」
「こんなに……こんなに、好きなのに……」
「!」
「あかね……」

情けない……。
こんなはずじゃなかった、けど……。

……あかねを、失いたくない……っ!

「好きだ、好きだよ……」
「乱馬……」

すでに力が抜けてクッタリとした体を抱えた。
おれの手にすっぽりと収まるほどに小さな顔に手を添える。

「あかね……」
「ん……」

何度となく、その唇に触れる。
あかねの体に力が入らないのをいいことに、おれは欲望のままにその甘い唇を奪った……。

「乱、馬……」
「……行くな……」
「え……?」
「他の奴のところになんか、行くな……」
「……」
「あかねは……誰にも渡したくねえ……」
「……」

ふ、と温かな液体が手に触れた。

「え?」
「乱馬……」
「あ、あかね!?」

あかね、な、泣いてる……!?

「そっ……そんなにおれが、イヤ……」
「ちがっ、そうじゃなくてっ」
「じゃあっ」
「……好き……」
「……は?」

な……なんだって!?

「好き……乱馬が、好き……」
「!?!?」

え、だって、さっきは……!?

「もう……ばか、乱馬……」
「は!?」
「……乱馬のことよ、ばか……」
「ばかばかってお前、おれはばかじゃねえっ!……って、え!?!?!?」

お、おれのこと!?
さっきの!?
好きな人って、あかねの好きな人って…………おれえええええっっっ!?!?!?

「おま……っ」
「……」

おれのことなら最初にそう言えよっ!!
……と言いかけて、やめた。
ぎゅっと胴着を握り締め、しがみつくようにおれに体を預けるあかねを見て。

……情けないけど、それでも……。

小さな体をしっかりと抱きしめた。
騒ぎに巻き込まれて成り行きで抱えたことはあるけど……。

……こんな風に、ぬくもりを感じながら抱きしめるのは……。

「あったけえ……」
「ふふっ、あたしも……」
「っ!!」

ああっ、なんちゅー可愛いことをっ!!!

って……あああああああああああっっっっ!!!!

「ごっ、ごめんっ!!」
「え?」
「おれっ、汗臭いよなっ!?」
「ええっ!?」
「へ?」

あ、あれ?臭くない?
あ!そうか!
好きな男の汗臭さは別に構わな……。

「いまさら!?」
「って、おいっ」

やっぱり臭いんじゃねえかっ!

「じゃ、じゃあ……ふっ風呂入ってくるかな……」

言えっ!言っちまえ、おれっ!

「い、一緒に……入る?」
「……え?ええっ!?!?」
「ほっほら、だってもう、なあっ!?」
「こ……っこの……っ」

はっ!!
やっやばいっっっ!!!!!

「ド変態があああああああっっっ!!!」

……ああ、顎が痛い……。

夜空の星を眺めながら、殴られた顎をさすりながら、それでもどこか幸せな気持ちでおれは空の旅に出た。
翌日、ダイスケとヒロシに何を白状させられるかも知らずに……。







「……また、今度ね?ばーか……」





…完…
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