短編

□茜色の空に思う
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【side A】

「なんで……言ってくれないの……?」
「え、いや……」

わかってる。
乱馬が照れ屋で素直じゃないって事くらい……わかってる。
でも、やっぱりちゃんとした言葉が欲しい。
乱馬からちゃんと聞きたい……。

「……乱馬……」
「…………」
「…………」

やっぱり……言ってはくれない、か……。

「……やっぱり、いいや……」
「え……」
「もう、いい……いいよ、乱馬」
「あか……」
「わかってるからっ。乱馬がそういうの言わないって……わかってる、から……」

キスしたのは間違いじゃないって言ってくれた。
もう一回いいかって聞いてくれた。
あたしを想ってくれてないのなら……きっと、言わないことだったはず……。
だから、あたしを想ってくれてるって受け取っていいのよね?
言葉がなくても……。

頬に涙が伝った。

あたしはそこで初めて気が付いた。
乱馬のことは分かってる。
言ってくれない言葉があるってことくらい……。
今のままの方がいいなんてウソ。
本当は、ずっと一緒にいたいと思ってる。
ずっと、今以上に近くに……。
だから……。

聞きたい……ちゃんと。
でも。

乱馬を見上げると、困ったような顔であたしを見てた。
少しでもあたしを想ってくれてる、って……わかっただけでも、満足しなきゃ……ダメね……。

あたしは目を閉じて乱馬を待った。
きっとこれからあたし達は……。


乱馬の唇が降りてきた。
額に、頬に、唇に、そして……首筋に……。

「……あかね」
「ん……」

乱馬の声で名前を呼ばれるのが好き。
大きな手で頬をなでられるのも好き。

乱馬が……大好き。

目を瞑って乱馬の体温を感じる。
大きな手も、あたたかい唇も……。





「……好き、だよ……」





「……えっ?」

どきんと心臓が跳ねる。

……小さな声で。
耳元でささやくように。

思わず目を開けて乱馬の顔を見ようとして……乱馬の首筋に顔を押し付けられた。
今のは……なに!?

「俺は……あかねを手放すつもりなんて、ねえからな」
「ら……っ」
「今、俺の顔見るなよっ。ぜってー……変な顔してるから……」

今の、って……。

ぎゅっと乱馬の袖を握ると、抱きしめられる力も強くなる。
バクバクバクバク……心臓の音はあたしの?それとも……?

「乱馬……」
「なっなんだよ……」
「もう一回、聞きたい」
「ふっっっっざけんなよっ、そう簡単に何度も言えるかっ!」

そう言いながらあたしを見た乱馬は思った以上に真っ赤で、冷や汗だかなんだか分からない汗をかいていて。
乱馬にとってはすごく緊張して頑張って言ったんだなって思えて。

あたし、思わず笑ってしまった。

「あっ、何笑ってんだよっ?」
「だって……乱馬、真っ赤」
「ううううるせーっ、もう絶対言わねえからなっ!」
「くすくす……」
「……わかってんだろうな?」
「え?」
「この俺様にここまで言わせたんだ、もう逃がさねえぞ?」
「……え?え!?ええっ!?あっあのっ、だって……」

もうみんなが帰ってくるかもしれないのに!?
あたし、好きって言葉を聞けただけで満足なんだけど!?

「だってじゃねえよっ!大体俺は……」
「?」
「おっ、俺は……あかねの気持ち、聞いてねえよ……」
「あ……」

そっ、そうよね……でもあたしは……。
ううん、乱馬だって言ってくれたんだもの!あたしだってっ!

「あっ、あのね……?」
「おうっ」
「あたしは、あの……」
「……」

じっとあたしを見つめる目に吸い込まれそうな感覚に陥る。
大好きな、深い色の瞳……。

どうしよう?
うまく伝えられる、かな……?





【side R】

頬を染めて俺を見上げるあかねの目。
必死に何かを言おうと頑張ってるのが伝わってくる。

俺だって必死だった。
あかねを泣かせたくなくて、不安にさせたくなくて……ちゃんと、俺はあかねを想ってるんだって分かってほしくて。
泣きながら俺と一緒にいるなんて、絶対にいやだった。
笑ってそばにいて欲しい。
笑顔のままで、俺の横に……。

「あたしは、あの……」
「……」

……ずっと聞きたかった。
あかねが俺をどう思っているのか。
……『想って』くれているのか。

「あのね……?あたし、その……」
「……うん」
「乱馬の、こと……す…………」







ガララッ。

「あかねー?乱馬くん、人に戻ってるー?」








「……なっ……なびき!?」

こ…………っ、このタイミングかよっ!?
ふざけんなよ、なびきっっっ!!

慌ててコタツから出て行くあかね……。

うあーー……もうちょっとだったよなっ!?
言いかけてたよな、あいつ!?
なんだよ、ちくしょーっ!


つん、と肩をつつかれた。
顔を上げると、膝立ちしたあかね。




「……好きっ」




「へ?」

パタパタと居間から出て行くあかねの後姿。
後ろからでも分かる、真っ赤な耳。

なっ!?何だ!?
何言われた、今!?

「……やべ」

すすすっ、好きって言われたぞ、おいっ!
聞き間違いじゃないよな!?
うわっ、嬉しすぎる!
どうやったってどうやったって頬が緩んじまう……っ。



あかねとなびきが居間に来る前に俺は庭から外に出た。
今、あかねの顔を見たら……平常心でいられる自信がねえからな……。

遠くに見える濃い夕焼け空。

……茜色。


俺、この色に……染まっちまいそうだな……。


ぼんやりと空を見上げながら、俺はそんなことを思っていた……。





…完…
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