短編

□そのあとで、ね?
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【R side】


なんで無視するんだよ!?
おれ、そんなに悪いことしたか!?
あの3人に追いかけられるなんていつものことだろ!?
なにそんなに怒ってんだよ!?

「ユカ!」

校門近くにいたユカを見つけて声をかける。

「あ、乱馬くん」
「あかねとどっか行ったんじゃねえのか?」
「ああ、別に……」
「……そうか」

やっぱり避けられてる、よな……。

「余計なおせっかいかもしれないけど」
「は?」
「あかねのファンは男だけじゃないんだから。泣かせたら……許さないわよ?」
「なっ、なに言ってんだよ!?」
「だって泣いてたもの、あかね」
「え……ほ、ほんとか?」
「……さあね」
「お前もかよっ!?」
「え?」
「あ、い、いや、なんでもねえ……わかったよ。じゃあなっ!」

どいつもこいつも!
あいつがそんな簡単に泣くわけねえだろ!?
あいつは鈍感で不器用で単純で……。

誰よりも、強がりで……。

……わかってるさ、あいつが泣き虫だなんてこと。
すげえ弱ってたって、必死に強がって平気なフリをするんだ。
だから、もしかしたら……なびきもユカも、本当のことを言ってたのかもしれない……。






「いたっ!」

なにやってんだ?
フェンスに寄りかかって下向いて……。
って、まさか!?

「……あかね?」
「!?」

恐る恐る声をかけたおれを、ハッとした様子で見上げる。
その顔はやっぱり……。

「……なんで、泣いてんだよ……」
「泣いてないわよっ」
「泣いてんじゃねえかっ」

どこまで意地っ張りなんだ、こいつは!?

「……今日」
「え?」
「今日、ずっとおれを避けてただろ」
「……」
「なんでだよ?おれ、なんかしたか?」
「……」
「なんか言えよっ」
「言ったってムダじゃない……」
「言わなきゃわかんねえだろうがっ!」
「……っ!!!」

俯いたまま、おれを見ようとしないあかねについつい怒鳴っちまった。
その瞬間、だった。

「乱馬のばかっ!!」
「なっ、はあ!?ばかってなんだよ!?」
「言われなきゃわからない時点で終わりよ!」
「なにが!?」
「あたしとあんたが!許婚が!跡を継ぐのも!全部全部、もう終わりよ!」
「は……!?」

お……終わり?
おれ達がって……許婚がって……!?

「合わなかったのよ、最初から!あんたはいつまでもはっきりしないし!あたしだってずっとずっと気持ちが宙ぶらりんなままだわ!もうイヤなの!これ以上あたしを乱さないで!あたしの心を乱さないで!!」
「お、おい……」

ボロボロと流れる涙をぬぐいもせずに、たまったものを吐き出すかのように叫ぶあかねに、おれは完全に圧倒されていた。
それでも、あかねの一言一言がズシンと俺の心に落ちていく……。

「あ、合わなかった、って……なんだよ……」
「もうイヤ……こんな自分、もうイヤなのよ……っ!」
「あかね……」

大きく息を吐き出したあかねは、やっと落ち着いたかのように再びフェンスに寄りかかった。

「やめにしたい……最初から、全部リセットしてやり直したいのっ……」
「リ……セット……」
「乱馬だって……その方がいいでしょう?何にも縛られないで、自由に生きたいでしょう?」
「お、おれは……」
「いいわよ、もう……うちのことも、あたしのことも。忘れていいから……もう、やめよう……?」
「あかねっ!」


ガシャン!!!!


フェンスが揺れる。
驚いたようにあかねが俺を見上げた。

「ら……っ」
「ふざけるなっ!」

あかねの顔が痛そうに歪んでも、俺はフェンスに押し付けたあかねの両手を離すつもりはなかった。

「なんでそういうことを自分ひとりで解決しようとするんだよ!?」
「な……っ」
「おれのことだろ!?なんでおれに言わないんだ!?」
「やり直したいからよ!あんたに言ったって何も変わらないわ!あたしは……あたしは、あたしの気持ちを最初からやり直したいの!」
「最初って何だよ!?」
「最初よ!あんたを好きになる前に戻りたいのよっ!!」
「え……」
「だから離してっ!」
「は……っ」

ドクドクドクドクドク……。

心臓が破裂しそうなほどに音を立てる。
あかねのたった一言が、こんなにもおれの心を揺さぶる……。

「は……っ離さねえよっ!」
「離しなさいよっ!」
「おれのことが好きなんだろ!?だったらおれのそばにいやがれ!」
「言ってくれなかったくせに!」
「……は!?なにを!?」

言ってくれなかった、ってなんだ!?
おれがあかねのことを好…………って、言えるかそんなことっ!

「昨日……右京に、言ってくれなかったじゃない……」
「うっちゃん?何を言えってんだ?」
「……あたし、あんたの何なのよ……」
「え……」

な、何って……なんだ!?
あかねはおれの……ええと、許婚で、同居してて、あとは……。

「あ、あかねは……おれの……」
「……おれの……?」

不安げな大きな瞳がおれを見上げる。
何かを期待しているような、それでいて切なさがにじみ出ているその瞳。
半開きの唇がまるでおれを誘っているようで……。

……自然とおれは、あかねの唇に寄っていった……。

「ら、乱……」
「あかねは、おれの……」

かしゃん、とフェンスが音を立てるけど……あかねがそれ以上、下がることは出来ない。
両手をおれに押さえられ、後ろにはフェンス。
逃げられない状況、なのに……不思議とあかねが抵抗することはなかった。

「おれの……大切な、許婚だ……」
「……っ!」

そのふっくらとした唇に触れようとした、その瞬間。
……ふ、と顔をそらされた。

「……いや、なのかよ……?」
「だ、だって……」
「だって?」
「右京にも、シャンプーにも、小太刀にも……あたしのこと、言ってくれないじゃない……」
「そっそれは……」
「あたし、そんなの……」
「っ!」

それか!?
それが今日、おれを避けてた理由かよ!?
そうだよな、確かに昨日うっちゃんに聞かれてなにも答えなかったよ!
だけどそれは……っ!

「あかねに……っ」
「え?」
「あかねに矛先が向くだろうがっ」
「……え!?」
「あの3人、今までおれにどんな手を使ってきた?武器だっておかしな道具だって、薬だって色んなもんっ!それが全部お前にいくんだぞ!?」
「そ、それで……」
「ああそうだよ!おれなら自分でなんとかなる、だけど、お前を危険な目には……っ」
「あ、あたしだって自分でっ!」
「おれがどんな思いをしたと思ってんだよ!?」
「!?」

ビクリ、とあかねが硬直した。
大きな目を更に広げて、困ったようにおれを見る。

「あのとき、呪泉洞であかねが目を開かなかったとき!おれがどんな気持ちだったと思う!?」
「乱……」
「もうごめんだ!あんな思いはもう二度とごめんだっっ!」
「ら、乱馬……」

……いつの間にか。
あかねの姿が滲んでいることに気が付いた。

やばい、おれ、かっこ悪……っ!

ぐ、とあかねの肩に額を乗せた。
男が泣くなんてみっともねえっ!

「……離れるな」
「え……」
「おれから、離れるな……絶対、危険な目には合わせないから。絶対におれがお前を守るから。だから……」
「……」
「……おれの横に、ずっといてくれ……」
「っ!!!」

スッと額のぬくもりが消えた。
あかねが気抜けしたように目の前で座り込む。
呆然とした顔でおれを見上げたまま……。
おれもあかねにつられるように一緒にしゃがみこんだ。

気まずい、とはこのことだ。

こんな情けないおれ、見せたくなかったのに。
おれはあかねを守るためにもっとずっと強くなければいけないのに……。

「……ばかね」
「なっ!?」

ふわりと微笑んだあかねにドキリとした。

「あたし、いるわ」
「へ?」
「……あんたのそばにいる。だから……」
「……だから?」
「少しずつでもいいの、他の女の子に……あたしのこと、ちゃんと言って?お願い……」
「……ああ」

懇願するようなその瞳に、おれは思わず頷いていた。
おれだって一生このままでいるつもりはない。
いずれはちゃんと言いたいと思ってるんだ。
それがいつになるかはわからないけど……。

「いずれ……ちゃんと言うよ」
「……いずれ、ね」
「あ、信じてねえな!?」
「信じてるわよ。だから……さっきの続きはそのあとで、ね?」
「へ?続き?」
「そっ」

パッと立ち上がったあかねがおれに笑顔を見せた。

「じゃ、帰ろっか!」
「お、おお……」

おれはあかねのあとに続いて歩き始め……。
……って、ちょっと待て。
続き?


まさか…………っ!?
さっきの!?きっ、キキキキキッ、キスのことか!?


え!?
そのあとで!?
つまり、おれがあの3人にあかねとのこと言わないと、キスもできないってことか!?

待て待て待て待て待て待てっっっっ!!!!!!

「くぉら、あかねっ!」
「なによ?」
「そっ、そのあとって!」
「当たり前じゃない、ね?」
「う……!?」

あ、当たり前、なのか……?
そうか、そうなのか……当たり前なのか……。

ちょ、ちょっと頑張らねえとな、おれ……。




「……待ってろよ、あかね!」
「気長に待ってるわ」




そう言ってあかねは、これ以上ないほどの笑顔でおれを振り返った……――



…終わり…
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