短編

□告げるのは!?〜乱Ver. 〜
2ページ/2ページ

【A side】


ゆかの告白は大成功!
相模先輩を呼び出してくれた乱馬には本当に感謝しなきゃね。
先輩を“確実に”呼び出す方法なんて、知り合いがいなきゃ難しいもの。

だからいつもは、宿題なんて自分でやりなさい、って言うところなんだけど。
今日だけは特別!
ま、今日だけ、ね?

……なんて思ってたんだけど。

「……いくらなんでも遅いんじゃない?」
「しょうがねえだろ、つい長風呂しちまったんだから」

乱馬がきたのは家族が寝静まったあと、すごく遅い時間だった。
いくら長風呂って言ったって、ちょっと遅すぎるわよ、まったく。

「早く写しちゃいなさいよ」
「わーってるよっ」

机に座ってガリガリと宿題を写す乱馬を後ろから見ていた。

広い肩幅、大きい背中、筋肉質な腕……。
椅子の上で胡坐をかいて、たまに頭をひねりながらも必死になっているのがわかる。

……あの背に……触れてみたいな……。

って!
なに言っちゃってるの、あたし!?
そっそりゃあ乱馬のこと、す……好き、だけど……っ。


“あかねも告白しなよっ!”


ゆかの台詞が頭に浮かぶ。
ラブラブな聖夜、なんて……考えられないわ。
考えられない、けど……あたし、乱馬となら……。

「うおっ!?なんだよ!?」
「え!?あっああごめんっ」

いけない、あたしったら!
考え事してるうちに乱馬の背に手をっ!

驚いた乱馬が、目を丸くしてあたしを見ていた。

「なんか色々考え事してたら……ごめんね?」
「お前……」
「なっなによっ」

なんで?
なんでそんな怒ったような顔してるの?
……あたしに触れられるのが……イヤ、なの?

「……ちょっとは考えたらどうだ?」
「え?」
「他に男がいるのに部屋におれを呼んだり、触ったり……」
「……ん?え!?男!?」

他に男がいる、って……あたしに!?
え!?なんでそうなるの!?

「ちょっとは貞操観念ってのを持てよっ!ここでおれに襲われたらどうするつもりだ!?おれに勝てるわけねえだろ!」
「なっなによ、その言い方!?確かにあたしは乱馬には勝てないかもしれないけどっ!大体、あんたにそんな勇気ないでしょ!?」

なんでそんな話になるの!?
襲うの襲わないの、そんな状況になったことなんてないじゃない!
右京のソースのときだって何にもしなかったくせに!

「おれには、んなこと出来ねえって思ってんのかよ!?」
「そうよっ!大体なによ、他のおと………………!?!?!?」

他の男って、と言い終えることは出来なかった。
だって……。



「……ら……!?」
「いつだって……いつだっておれは我慢してただけだっ!」
「!?」



座っている乱馬の後ろに立っていたはずのあたし。
気が付いたときには……両手首を押さえられて、壁に押し付けられていた……。

「あかねがその気になるまで待とうと思ってた!ちゃんとあかねがおれを見てくれるまで待つつもりだったんだ!それなのに……っ!!」
「ら、乱馬!?」
「……渡さねえ」
「え……」
「先輩になんて、他の男なんぞにあかねを渡してたまるかっ!!」
「乱っ…………んぅっ……」

言葉を紡げなかったのは、決して口を噤んだからじゃない。
口を……塞がれた、から……。

「乱っん、馬ぁ………………っ」

乱馬の名を呼べないほどに、息も出来ないほどに、何度も何度も角度を変えながら乱馬からのキスを受けた。
あたしの手首を掴んでいた大きな手はいつの間にかしっかりとあたしを抱きしめ、優しく優しくあたしの体を支える。

熱くて、激しくて、そんなキスが……少しずつ、少しずつ……優しくやわらかく、あたしを溶かしていった……。

「乱、馬……」
「あかね……好きだ、あかね……」
「!」
「……行くな」
「……え?」
「……相模先輩とこになんか……行くなよ……」
「!!!」

あたしの頬をなで、唇をやさしく合わせながら……深い深い色の瞳があたしを捉える。
しっかりと抱き寄せられた体は乱馬の大きな胸にすっぽりと入り込んでいた。

「……乱馬……?」
「渡さねえ……あかねのこと、離す気なんて……」
「あの……な、なんの話……?」
「へ?」

うっとりするようなこの時間がずっと続けばいいのに、そう思う。
けど、乱馬の言っていることが理解できなくて、思わず聞いてしまった。

「だ、だから……告白、したんだろ?」
「え?ええ……ゆか、先輩がOKしてくれた、ってすごく喜んで……」
「……は!?ゆか!?!?」
「うん、あの……どうかした?」
「あの……あ、あかねじゃなく!?」
「ええ!?」

あ、あたし!?
乱馬、あたしが先輩に告白するとでも思ってたの!?

「ば……っバカッ!あたしがそんなことするわけないじゃない!」
「だっだってお前っ!んなこと一度も言わなかったじゃねえか!」
「そりゃ……乱馬が先輩を呼び出すときに動揺しないように、って……」
「……な……っんだ、そりゃ……」

ヘナヘナ、とあたしを抱きしめたままでその場にへたり込んだ。

……そんな誤解、してたなんて……。

「……あたし、乱馬の許婚だもの……」
「……知ってる」
「乱馬を裏切るようなこと、しないから……」
「……おれだってしねえよ……」
「……うん」

あたしの首筋に埋まる乱馬の顔は見えない。
でも、なんとなく……そう、なんとなく、乱馬の脱力してる顔は予想できる。

「乱馬……」
「んだよ?」
「……あたしも、好き……」
「っ!」

きゅ、とあたしを抱きしめる腕に力が入った。

「天道家のクリスマスパーティーは明日、だけど……」
「うん?」
「……おれたちのクリスマスは今日、じゃ……ダメ、か?」
「……ダメなわけ、ないじゃない……」




乱馬の目にあたしが映る。
あたしの目にはきっと乱馬が……。

大きな手のひらに頬を寄せ、あたしはその目を閉じた……。




…完…
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ