短編

□告げるのは!?〜あVer. 〜
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【A side】


ゆかの告白は大成功!
相模先輩を呼び出してくれた乱馬には本当に感謝しなきゃね。
先輩を“確実に”呼び出す方法なんて、知り合いがいなきゃ難しいもの。

だからいつもは、宿題なんて自分でやりなさい、って言うところなんだけど。
今日だけは特別!
今日だけ、ね?


“あかねも告白しなよっ!”


ゆかの台詞が頭に浮かぶ。
ラブラブな聖夜、なんて……考えられないわ。
考えられない、けど……あたし、乱馬となら……。


だから、もしかしたら……想いを伝えるチャンス、かもしれない……。



……なんて思ってたんだけど。

「……いくらなんでも遅いんじゃない?」
「しょうがねえだろ、つい長風呂しちまったんだから」

乱馬がきたのは、すごく遅い時間だった。
いくら長風呂って言ったって、ちょっと遅すぎるわよ、まったく。

「早く写しちゃいなさいよ」
「わーってるよっ」

机に座ってガリガリと宿題を写す乱馬を後ろから見ていた。

広い肩幅、大きい背中、筋肉質な腕……。
椅子の上で胡坐をかいて、たまに頭をひねりながらも必死になっているのがわかる。

……あの背に……触れてみたいな……。

って!
なに言っちゃってるの、あたし!?
そっそりゃあ乱馬のこと、す……好き、だけど……っ。




「うおっ!?なんだよ!?」
「え!?あっああごめんっ」

いけない、あたしったら!
考え事してるうちに乱馬の背に手をっ!

「……ま、いいわ。写し終わったから寝る。サンキューな」
「え……」

い、行っちゃうの……?

「なんだよ?」
「あ、あの、別に……」
「?」

くるり、とあたしに背を向ける乱馬。
あたしは……。


「っ!?!?」


ぐいっ、と乱馬の服をつかんだ。
驚いた乱馬があたしの方を向く……。

「なんだよっ!?」
「あ、あの……」
「だからっ!用があるならちゃんと言えって!」
「あの、あの……」
「なんなんだよ、一体!?」

あ、あたし、そんなに強く引っ張っちゃった!?
怒りを露にする乱馬に、あたしは思わずうつむいた。

「……あの、行っちゃうの……?」
「はあ!?」
「きょ、今日、ね?」
「あ?」
「だっ……誰も、いないの……」
「……は?」
「お父さんとおじさまは町内会で、おばさまとかすみおねえちゃんはそのお手伝いで、なびきおねえちゃんはデート、で……」
「……だから?」
「っ」

だ、だから、って……。
あたしたち、一応許婚、で……。

「他の男がいるのに、おれを誘ってんのかよ」
「……え?」

他の男???

「相模先輩とうまくいったんだろ。おれは……用無しじゃねえのか?」
「え……」

ど、どういうこと!?
乱馬、なにを勘違いしてるの!?!?

「……他の男に言い寄ってる女、手ぇ出す気なんてさらさらねえよ」
「……っ!!」


バタン!……――


……違う、と言う間もなかった。
あたしは必死で、乱馬がなにをどう誤解しているのか、それだけを必死に考えていて……。


“それはコクハ……じゃなくて!”
“今日はありがとう、上手くいったわ”


……あたし、ゆかの告白って……言って、ない……。
そうよ、言ってないわ!
乱馬、まさか……まさか、あたしが相模先輩に告白したと思ってるの!?
あたしと相模先輩がうまくいった、と……!?

「ち、違う……違う違うっ……」

やだ、いやだ……そんな誤解、しないで!
あたしは他の人なんて見ていない!
あたしが見てるのは……ひとりだけ、なのに……!!!













【R side】


なに考えてんだよ、あいつは!?
家に誰もいない!?
ああ、んなことわかってる!
家の中の気配であかねしかいないことくらい、とっくに分かってる!

誰もいない、だから……どうしろってんだよ!?

相模先輩に告白したんだろ!?
相模先輩とうまくいったって言ったじゃねえか!
なのに、おれを部屋に呼んで、触れて……っ。

……どれだけおれが、苦しんでいるかも知らないで……っ!!!


怒りのままに部屋に飛び込み、そのまま布団を被った。

いつかはあかねと、そればかりを考えていた自分があまりにも愚かで。
独りよがりだったと思い知らされて、あまりにも情けなくて。

……いつかはあかねと並んで、歩んで、ずっと一緒に……。

……おれ、バカみたいじゃねえか……。




――……トントン……――




「!!」

家族が誰もいない今、部屋をノックするのはひとりしかいない……。
でも……返事なんて、してやらねえよ……。

「……あ、あの……乱馬……?」
「……」
「開けても……いい?」
「……」
「あ、開けるね?」

カラリと乾いた音がした。
あかねが部屋に入ってくる気配がする。
でもおれは……布団を被ったまま、起きなかった。

「乱馬」
「……」
「……まだ、寝てないでしょう?」
「……」
「あのね?あの……誤解、解きにきたの……」
「……」

誤解?
なんのことだよ?

「……あたし、相模先輩に告白なんてしてないわ……」
「は!?」
「っ!」

……思わず飛び起きた。
な、なんつった、今!?

「あたしじゃないの、相模先輩に告白したのは……ゆか、だから……」
「ゆ、ゆかぁ!?」
「ご、ごめんね?ちゃんと言わなくて……」
「おま……っ」
「言ったら乱馬が動揺しちゃうと思って、余計なこと言わないようにしようと……」
「よ、余計って……余計なことどころか、大事なとこも言ってねえじゃねーかっ!」
「ご、ごめん……」

な…………なんだよ…………。
じゃあ、あかねは……。

「……乱馬には……誤解、してほしくないから……」
「……おれ、“には”?」
「っ」

起き上がった俺の前に正座し、真っ赤になって俯くあかね……。
か……っかわいいじゃねえかっ!

「あたし……」
「……」
「あの、あのね……?」

俯いたままでもじもじと両手を握り締める、その手が……。
……おれの手に、触れた……。

「あかね……?」
「あ、あたし……」

柔らかな指先が、おれの指に絡む。
ゆっくりと、少しずつ……その絡む指先に、おれは自分の指を更に絡ませていった……。

「あたし……」
「……うん……」

必死に言葉を紡ぐあかねが愛しくて。
かわいくて、あたたかくて、そして……。



「……乱馬が、好き……」



「っっっ!!!」

薄暗い部屋で、指先が絡む。
俯いたあかねが少しだけ、ほんの少しだけ震えているのがわかった。

……おれがあかねを突き放すなんてこと、するわけないだろう……?

「……あかね」
「……っ」

顔、小さいな……そんなことを思いながらあかねの頬に手を添えた。
そのままゆっくりと上向かせる。

「……真っ赤」
「っ」

大きな目を潤ませて、今にも泣きそうな顔での上目遣い。
これは……最強だ。

「目くらい瞑れば?」
「……え?」
「ばーか……」

一瞬、大きく見開かれた目が、きゅっと閉じられた……。

「……かわい」
「え……」



……やわらかい。



それが、最初の感想。
それから……甘い吐息と、抱き寄せた身体の温かさ……。

ゆっくりと唇を離して、そのまましっかりとあかねを抱きしめた。

「……焦ったじゃねえか……」
「ら、乱……」
「……行っちまうかと思った……おれの手の、届かないところまで……」
「……行かない……ここに……乱馬のとこに、いる……」

おれのところにいる、そう言ったあかねの手がおれの背にゆっくりと回る。
しゅんっ、としゃくり上げながら必死におれにしがみつくあかねが、すげえ可愛い……。

「泣いてんのか?」
「だって……乱馬、怒ってたから……だからもう、話も聞いてもらえないかも、って……」
「怒ってねえよ、ただ……」
「……ただ?」
「どうしていいのか、わからなかっただけだ……」
「……ごめんなさい……」
「……謝るくらいなら……」
「……?」



「――……         ……――」



「っ!!!」

おれの発した言葉に身体がピクリと反応した。
そのあとに。
……あかねがコクリと頷いた……。



今夜は……離さない……――。




…完…
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