ナギ 2

□花の降る夜 〜 After love episode 〜
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雪が舞う街を抜けて船へと戻ると、真っ白に染まった甲板に皆が何度も行き来した足跡が残っていた。


きっと、ヒロインだけじゃなく俺とまで連絡が取れなくなって心配かけちまったんだろう。


食堂に入った俺らを見た時の、皆の驚きと喜びが入り混ざった表情がそれを物語っていた。



頭を下げて詫びる俺とヒロインに無事だったんならそれで良い、とにかく熱い風呂に入って早く休むように、とだけ言われた。



ただ…



俺達二人の何かが変わったのを察したのか


船長には散々からかわれ、シンにはこれでもかと嫌味を言われ


ドクターとハヤテとトワはまるで自分の事かのように喜んでくれた。


いつもなら、こんなこっぱずかしい状況なんて耐えられねぇ。


だけど顔を真っ赤にして照れまくるヒロインを見ていると、たまには悪くねぇか、と思えて



自分が今までに感じた事ねぇぐらい満たされているのを実感していた。






*******




風呂から出て部屋に戻ると、もうすっかり寝る準備を終えたヒロインがベッドに座っていた。



「ナギさん、温まりましたか?」


ヒロインが無邪気に笑って俺に駆け寄って来る。



「ああ。」



何だかヒロインを直視出来なくて、ぶっきらぼうにそう答えると視線を逸らした。


そんな俺の態度に気付かねぇのか気にしてねぇのか、ヒロインは俺の隣でにこにこと笑ってる。



…ったく。


何で風呂あがりってのはこうも無防備に見えんだよ。



俺は身体の中心が、じわりと熱を持つのを感じた。



こいつが無防備なのは今に始まった事じゃねぇ。


10代のガキじゃあるましいし、そんな直ぐにがっつくつもりもねぇ。


それにヒロインを求めるのと同じぐらい強い気持ちで、ヒロインの事を大切にしてぇと思ってる。



だけど一旦箍が外れた俺の感情は、どこまでも走り出して止まれねぇ気がした。



「…俺は、医務室で寝る。」


「えっ?なんでですか?」



キョトンとした顔でヒロインが俺を見上げて、そして直ぐにしゅんと肩を落とした。



「私がいると、ナギさんベッドで寝られないですもんね…」



俺の言葉を違う意味で捉えちまったな。


そうじゃねぇって言ってやりてぇが


一緒にいたらお前を襲いそうだから、なんて言えるか。



「あっ!ナギさんも一緒にベッドで寝たら良いじゃないですか!!」



ヒロインの顔がパッと明るくなる。名案でしょ?と言わんばかりに得意気な表情だ。



あほ。それじゃ生殺しじゃねぇか…



「や、俺は医務室に…」


「大丈夫です!ちゃんと小さくなって大人しく寝ますから!!…それとも、」



ヒロインの目が不安気に揺れた。



「ナギさん…私と一緒じゃ嫌、ですか?」



その表情が無性にいじらしくて、思いっきり抱きしめてぇ衝動に駆られる。



(仕方ねぇな…)



短く息を吐くと、ヒロインにバンダナを差し出した。



「これで、俺の手を縛れ。」


「へっ…?」



ヒロインがすっとんきょうな声を出して目を丸くしている。



(まぁ、そうだろうな。)



お前は、そんな事考えてもいねぇだろ。


だけど俺は



「一緒に寝て、お前に何もしねぇ自信がねぇ。」


「え…ええぇぇー!?」



面白ぇぐらい、一気にヒロインの顔が赤くなった。



「ナナナ、ナギさん、何言ってるんですか!?」


「悪ぃな。俺も男なんだ。」



惚れた女とひとつのベッドに寝て、何もしねぇ程出来た人間じゃねぇんだよ。



「で、でもナギさんって船長みたいに娼館に行ったりしないし


皆の話にも参加しないし、そうゆうの余り興味ないのかと思ってたんですけど…」



お前…俺を聖職者か何かだと思ってんのか?



「娼婦や他の女になんて興味ねぇ。」



指先を滑らせるように、ヒロインの髪を鋤く。



「お前だから、我慢出来ねぇんだ。」



他の女なんてどうだって良い。


ヒロイン、俺はお前が欲しいんだ。



「分かったか?だから、さっさと縛れ。な?」



ヒロインの頭をポン、と撫でると両手を揃えて差し出した。





 

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