ナギ 2

□緋い花
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船の廊下に足音を響かせ、ハヤテが勢いよく食堂に飛び込んで来た。



「船長!ヤツから連絡が来ました!!」


「よし、食い付いたか!」





俺達が今狙っているのは『月下の踊り子』と言う絵画で


その絵を持っていると言われているのが、この辺りの裏社会を牛耳っている男だ。


ソイツは『月下の踊り子』には興味が無いらしく、何か良い物を持ってくればそれと交換をしても良いと言っている。


が、この男なかなかのくせ者で…取引きの相手は女しか認めねぇ。


元々が無類の女好きと言う事もあるが


女ならもし取引きの時に攻撃されても返り討ちに出来るから、と、かなり用心深い男らしい。



(用心深いって言うか、情けねぇって言うか…)



俺は小さくため息を吐くと、隣に座るヒロインにチラリと視線を投げた。



そこで船長が考えたのは、ヒロインを『月下の踊り子』を欲しがっている令嬢に仕立てあげ


その情報を流してヤツが接触して来るのを待つと言うものだった。


俺は反対したが、今までその男が女とした取引きでは悪い話は聞かねぇと言う事と


ヒロインの強い希望もあって、仕方なくその作戦を認める事にした。



(ヒロインは言い出したら聞かねぇからな。)



俺達が流した偽の情報に食い付いたヤツから最初に連絡が来たのが数日前。


『月下の踊り子』と引き替えに渡す物はヤツ好みの華美な宝飾品を用意し


更に、取引きに応じる時は護衛の男を一人同席させる事を条件に提示してある。


今回のヤツからの連絡は、その条件で取引きを行いたいと言うものだった。


そんな男のところにヒロインを行かせるのは不安だったが


俺も一緒に行けるなら、最悪の場合もヒロインだけは守れるだろう。



「取引きは今夜ヤツの別邸でする事になった。ヒロイン、行けるか?」


「はい、大丈夫です。」



緊張からか、少し頬を赤く染めたヒロインが力強く頷く。



「よし。じゃあ、ナギ。ヒロインの護衛を頼むぞ。」



「はい」と返事をしようとした時



「船長。」



ヒロインが俺の言葉を遮った。



「取引きは、シンさんと一緒に行っても良いですか?」



(シン、だと…!?)



俺を含めて、そこにいる皆がヒロインと一緒に行くのは俺だと思っていた。


その予想を裏切るヒロインの言葉に、食堂にいた全員が戸惑うのが分かった。



「ヒロイン、ナギじゃなくて良いのか?」


「はい。シンさんじゃ駄目ですか?」


「駄目って事はねぇよ。むしろ令嬢の付き人としてはシンの方が適任だ。けどなぁ…」



船長が俺の顔色を伺うように問い掛けてくる。



「ナギは、それで良いか?」


「…ヒロインがそうしたいなら構いません。」


「そうか…シン、ヒロインの護衛役を頼む。」


「分かりました。」


「よし!じゃあ、各自今夜の取引きに向けて準備を始めろ!」




(…何でだよ。)



何で俺じゃなくてシンなんだよ。



皆が足早に食堂から出て行く姿を見送りながら


俺は、胸の奥で小さな炎が燻り出したのを感じていた。






 

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