ナギ 2

□あの雲のように
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森の中にいる時のこの感覚を、何て言ったら良いのか。



何だか胸が苦しいような



それでいて妙に落ち着くような



良くも悪くも、やっぱり俺は此処で育ったんだろう。



一瞬意識が遠い昔に引き戻されて、目の前が揺れた気がした。



ぎゅっと目を閉じ振り返ると、ヒロインが俺を見てふわり、と笑った。



その途端、胸の中に重く立ち込めていた何かが溶けていく。



何だかお前の笑顔がいつもよりも眩しく見えて、俺は少し目を細めてヒロインを見つめた。



「ナギ?」



ヒロインが不思議そうに首をかしげて俺を見上げる。



お前は分かってねぇんだろうな。


俺が今ここでこうして落ち着いていられるのは、お前がいるからだって。



手を伸ばし、ゆっくりとヒロインの髪を撫でた。



「……食材も結構集まったし、少し休憩するか。」


「うん!」



二人で木陰に座り、水を飲む。



風がサワサワと木の葉を揺らしていく。



「はぁー、森の中って気持ち良いね。」



ヒロインが大きく背伸びをしながら言った。



「ああ。」


「私が育ったヤマトはね、結構森林の多い地域なの。だからなのかな、木の側にいるとほっとする。」


「…そうか。」



些細な事だが、お前が俺と同じように感じていた事が無性に嬉しく思える。



「本当…気持ち良い。」



そう言って、ヒロインが空を仰ぐとゆっくりと目を閉じた。



   
     illustration by kao



ヒロインの頬に木漏れ日が当たって揺れる。



風と、木々と、日の光と



その全てがヒロインを柔らかく包み輝かせる。



空を見上げると、晴れ渡った青空にぽっかりと浮かんだ雲が緩やかに流れている。



ヒロインと同じように、俺もそっと目を閉じてみた。



瞼に当たる日差しが心地好い。



昔は、こんなにも日の光を温かいと思った事は無かった。


風も木々も昔とはまるで違って、全てが優しく感じる。



他愛もない日々を幸せだと思うのも



未来が無限に広がってるように見えるのも



目に写る全て、感じる全てが昔と違っているのも



きっと、ヒロインが側にいるから…




これから先もずっと



穏やかな風のような、お前の笑顔に揺れて生きていけたらいい




青空に浮かぶ、あの白い雲のように






end






 

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