ナギ 2

□ある夜の出来事
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今夜は満月の宴。


普段からよく食べよく飲むシリウスの皆だけど、宴となるとその量は桁違いに増える。


宴が始まると食事を担当しているナギさんと私は、文字通り目の回るような忙しさだった。



「ふぅ…」



(やっと、落ち着いてきたかな。)



宴も中盤に差し掛かり皆のペースが緩やかになったのを見計らって、私はお皿に残されていた料理に手を伸ばした。



「ヒロインもしっかり飲んで、しっかり食えよー!」


「わっ!こんなに飲めませんよ!!」



ハヤテさんが私のグラスに並々とお酒を満たす。



(まぁ、たまにはいいか。)



今日は宴。しかも綺麗な満月。


食事の用意も順調にいった事もあって、何だか今夜は私も飲みたい気分だった。





「あれ?ナギさんは?」



暫くしてから、ナギさんの姿が見当たらない事に気付いた。



(まさか、厨房?)



私一人だけ宴に参加して、ナギさんに全部仕事をやらせていたらどうしよう!


私は慌てて立ち上がると厨房へと向かった。





「うーん…ナギさん、どこに行ったんだろう。」



厨房を覗いてみたけど、ナギさんはいなかった。


念のため地下の倉庫や船室も見たけど、そこにもナギさんはいなかった。


私とすれ違いで宴に参加したのかもしれないと、もう1度甲板に出た時に船首の方にナギさんの後ろ姿が見えた。



「ナギさん。」


「ああ、ヒロインか。」


「ナギさん、飲んでますか?」


「お前ほどじゃねぇけどな。あんま飲み過ぎんなよ。」



ナギさんが持っていたグラスに口をつけた。


その仕草が妙に男っぽくて、ドキッとする。



何だか、頬が熱い。


久し振りに調子に乗ってお酒を飲んだせい…?






「おーい、ヒロインー!酒が無ぇぞーー!!」



船尾の方から、お酒を催促する船長の声が飛んで来た。



「あ、はーい。」



返事をしてその場を離れようとした私の手首を、ナギさんが掴んだ。



「ナギさん?」


「放っておけ。そのうちトワが取りに行くだろ。」


「で、でもトワくんに悪いし。」



ナギさんの手に力がこもる。



「ここにいろよ。」



その真っ直ぐな視線に誘われるように、私は黙って頷いた。



それにしても、ナギさんがこんな事を言うなんて…



「ナギさん…酔ってますね。」


「かもな。」



そう言って、ナギさんはまたグラスに口をつけた。


口元には楽しげな笑みが浮かんでいる。


その横顔に心臓がとくん、と跳ねた。



「やっぱりナギさん酔ってますよ!もぅ、酔っ払いは…すぐに、そうやって絡んでくるから。」



照れ隠しでそう言った私を見て、ナギさんが小さく笑った。



「お前も酔ってんだろ。」


「えっ?」



ナギさんがグラスを船の縁に置き、空いてる手を私の方へのばすと




「顔が赤い。」




指先で、そっと頬に触れた。





私は、まるで金縛りにでもあったみたいに動けなかった。



もしかすると、瞬きも、息すらしてなかったかもしれない。



私に触れたナギさんの手が




びっくりするぐらい優しかったから…





ナギさんの指が頬を滑り降りて、唇に触れる。



ゆっくりとナギさんの親指が私の唇をなぞっていく。



その間も、私は身動きひとつ出来ず、ただただナギさんを見つめていた。



グラスのお酒とよく似た、透き通った琥珀色の瞳を




瞬きもせずに…




不意に月明かりが揺れて、ナギさんのシルエットが近付いた気がした。






「おーい!ナギ兄ーー!!飯、全然足りねぇよ!」



突然響いたハヤテさんの声に、ナギさんが視線を皆のいる船尾の方へ向けた。



するり、と解けるように指先が離れていく。



「チッ…アイツら、どんだけ食う気だ。」



そう言って、ナギさんはグラスを手に取ると


皆の待つ宴へと戻って行ってしまった。




その背中が見えなくなった途端に、私はその場にぺたんと座り込んだ。



急に、心臓が飛び出してきそうな程に暴れ出して、全身を熱が駆け巡っている。



(キ…キス、されるのかと思った。)



さっきまで止まっていた時間が、一気に動き出す。




頬が熱いのも、心臓がこんなにもドキドキしているのもお酒のせいなんかじゃない。絶対に。



(ど、どうしよー!)



真っ赤になっているであろう私の顔も、暴れ回る心臓も、溢れだした想いも


いつまで経っても落ち着いてくれる気配はない。



どうしよう、どうしよう



やっぱり私、ナギさんの事が…




ナギさんに触れられた頬や唇の熱が冷めなくて


私はいつまでもその場所から動けなかった。





これは、私とナギさんの想いが通じ合う少し前の



ある満月の夜の出来事…







end






私、恋人前のこうゆう焦らしプレイが堪らなく好きなんですが(σ*´∀`)←








 


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