ハヤテ

□涙の訳
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「あー、腹減ったー。」



(ったく、修行すると腹が減ってしかたねーな。何か食うもの、食うもの。)



厨房のドアを開けようとしたら、中からヒロインが飛び出してきた。



「うわっ。あっぶねーだろ!気を付…け…」



俺を見上げるヒロインの目は真っ赤で、涙をぽろぽろとこぼしている。



(えっ?泣いてんのか?)



ヒロインはぺこりと頭を下げると、そのままパタパタと出て行った。



その後ろ姿を見送りながら、自分の心臓の激しい鼓動を感じる。



(うわっ!なんで俺こんなにドキドキしてんだ!?)



きっと、ヒロインが急に飛び出してきてビックリしたからだ。


じゃなきゃ、俺の心臓がこんなになる理由なんてねーだろ。



気を取り直して厨房の中に入ると、ナギ兄が夕飯の仕込みをしていた。


だけど、ナギ兄の様子はいつもと何も変わらなくて



(ヒロイン、あんなに泣いてたんだぞ。何でナギ兄は涼しい顔してんだ。)



「ナギ兄、あいつ…」


「…なんだ?」


「い、いや、何でもねぇ。」



(なんか、ムカつく。)



あんなにヒロインを泣かせておきながら、顔色ひとつ変えねーなんて。



(ってか、何で俺がムカついてんだ?)



「ハヤテ、お前何しに来たんだ?」


「あ、腹が減ったから何か食うもん貰おうと思って。」


「パンがそこにある。」


「…どーも。」



いくつかパンをつかむと俺は厨房を後にした。



(さっきから、俺なんか変じゃね?)



そう思いながらも、思い出すのはヒロインの顔。


トワと3人で甲板掃除をしながらふざけて笑う顔。


からかった俺に、むきになって言い返してくる少し拗ねたような顔。


でも、あんなしおらしい泣き顔なんて今まで見たことねー。



(チッ、ナギ兄の前では、あんな顔すんのかよ。)



そう思うと、胸がキュッと締め付けられ息苦しくなる。


説明のつかない感情が次から次に湧いてきて、妙に胸騒ぎがする。



「だあぁぁぁぁーっ!!!」



(っつーか、なんで俺がこんなにアイツの事考えなきゃいけねーんだ!?マジ意味分かんねー!!)



「おーい!トワ!!修行の続きだー!!」



俺はパンを頬張ると、自分の中に生まれた感情を振り切るように全速力で駆けだした。



*******




「ナギさん。さっきは、すいませんでした。」


「…落ち着いたのか?」


「はい、もう大丈夫です。あっ!ナギさん私の分の野菜も全部切ってくれたんですね。」


「その方が早いだろ。」


「本当にすいません!それにしても今日の玉ねぎはめちゃめちゃ目にきました!ナギさんは何で平気なんですか?」


「…気合いだ。」


「ナギさん…さすがです。」





end










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