ハヤテ

□ラビリンス −迷宮−
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ハヤテ side



「…おい、しっかり歩け。」



船長の部屋でめちゃめちゃに飲んだ。それこそ船長が勧めるまま浴びるように。


お陰で、こうやってナギ兄に部屋まで運んでもらうはめになった。


ナギ兄じゃなくて、ソウシさんか誰かが運んでくれれば良かったのに。これじゃ、見たくも無いものを見ちまう…



「…おい、ヒロイン」



ナギ兄が、部屋に居るヒロインに声をかける。扉が開きヒロインが顔を出す。



「えっ?ナギさん?って、ハヤテ、大丈夫!?」


「完全に潰れてる。このままベッドに寝かせるぞ。」



ドサッと、ベッドに倒れ込む。胸がムカムカするのは酔ってるせいだけじゃねー。



「…水、取ってきてやるから。」


「あ、ナギさん。私が行きますよ。」



ヒロインが俺の側を離れて、ナギ兄の方に駆け寄る。


目を閉じていても、お前がどんな顔してナギ兄と話しているのか分かる。少し頬を赤く染めて、ぜってー俺には見せねーような恥じらった顔してんだろ。



(お前は、ナギ兄が好きなんだもんな。)



俺が潰れるまで飲んだのは、お前のせいだ。惚れた女が同じ部屋にいて平然としてられる程、俺は大人じゃねー。



(しかも、お前は他の男に惚れてるし…)



ヒロインはぜってー俺のモンにはならねー。だけど誰よりも俺の近くにいる。


俺がいるのは天国か、それとも地獄なのか…



(俺は、いつまでこの状況に耐えられんだ?)



少しずつ遠ざかる二人の足音を聞きながら、俺は眠りの中に落ちて行った。



*******



「ナギ兄、昨日は悪かった。」


「…お前、自分の飲める量ぐらい把握しとけ。」



厨房で、一人食事の準備をするナギ兄の背中に向かって昨日の事を謝る。


ナギ兄の背中は広くて逞しい。



(頼れる男って感じだよなー。)



男の俺から見ても、ナギ兄はイイ男だと思う。もし俺が女なら、迷わずナギ兄を選ぶ。



「なー、ナギ兄の好きな女ってどんなん?」


「……お前、寝ぼけてんのか?」


「や、ナギ兄って俺と全然違うし、大人だし?どんな女に惚れんのかと思ってさー。」



ふいに、ナギ兄の瞳に暗い影が差す。



「……俺が誰かに惚れるなんて、あり得ねー。」



そう言い捨てると、ナギ兄は無言で料理を始めた。


俺は詳しい事情は知らねーけど、ナギ兄は過去に何かがあったって事は分かる。


それこそ、俺なんかが想像出来ねーような重い過去が。


だからナギ兄は、誰にも心を許さねー。いつも、ある程度の距離を保ってしか俺らにも関わらねー。



(それって、辛くねーのか?)



俺はヒロインの事も好きだけど、ナギ兄の事も好きだ。本当の兄貴みたいに思ってる。


だから、ナギ兄にも幸せになってもらいてー。



(アイツなら、ナギ兄を幸せにしてやれんじゃねーか?)



ヒロインは不思議と、一緒にいるヤツの気持ちを穏やかにしてくれる。アイツが隣にいるだけで空気が和らぐ。



(俺はアイツに惚れてるから、そう感じるだけか?)



いや、そうじゃねー。


その証拠に、ナギ兄だって何だかんだ言ってヒロインには優しいし、あのシンですら何かしら理由をつけてヒロインを呼びつけてる。


俺がアイツを忘れられれば、そう出来れば…ナギ兄もヒロインも何も気にする事はねー。


自然に恋をして、二人は幸せになれるんじゃねーのか?



(俺に…忘れられんのか?)



だけど、やるしかねー。アイツが心から幸せになれるんだ。なにがなんでも、やるしかねー。


悔しいけど、俺がヒロインの為にしてやれる事なんて、お前への想いを切り捨てる事ぐらいしかねーんだ。





 

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