ソウシ
□宇宙(そら)を仰ぐ
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「ソウシさん、交代っす。」
不寝番の交代を告げに、ハヤテが見張り台に顔を出した。
「ああ。ハヤテ、後は宜しく頼むよ。」
「うぃっす。今夜は寒ぃっすね。」
ハヤテは見張り台に座ると、そそくさと毛布に包まった。
早くも冬の気配を纏った夜の空気はピリリと冷たく、そしてどこまでも澄んでいる。
甲板に降り立って空を見上げると、まるで星が降り注いでくるかのようで
私は思わずその輝きに見惚れていた。
「ソウシさん、どうかしたんですか?」
「ヒロインちゃん、まだ起きてたの?」
「はい。ソウシさんを待っていたんですけど、なかなか帰って来ないから心配になって…」
自分ではほんの少し見ていただけのつもりだったけど、思っていたより長い時間こうしていたのだろう。
自室に戻って来ない私をヒロインちゃんが甲板まで探しに来た。
「ごめんね、星が綺麗で見ていたんだよ。」
「星、ですか?」
ヒロインちゃんが私の隣に並び空を見上げた。
「綺麗…降ってくるみたいです。」
ほうっとため息を吐くと、ヒロインちゃんが呟く。
しばらくそのまま夜空を眺めていたが、どちらとも無く甲板に腰を下ろした。
「ヒロインちゃん、寒くない?」
「はい。ソウシさんがいるから大丈夫です。」
ショールを羽織った肩を抱き寄せると、少し頬をピンク色に染めたヒロインちゃんが微笑んだ。
「今ヒロインちゃんが見ている星の光はね、今光っている訳じゃないんだよ。」
「えっ?そうなんですか?」
「うん。あの星達は私達のいる地球からものすごく離れていてね。今見ている光は何十年、時には何百年も前に光ったものがやっと今届いているんだって。」
「何百、年…」
「そう思うと、何だか不思議な感じがするよね。」
あの星が瞬いた時、私も君もまだ生まれていなかった。
その光がこの地球(ほし)に辿り着く迄の間に、幾つもの命が生まれ、出逢い、そして消えていったんだろう。
果てしない時を超えて、やっと私達に辿り着く。
命は巡る
何度も 何度も…
やがて私達に繋がり
また新たな命に続いていく
こうやって時の流れに想いを馳せていると、理屈では説明出来ない大きな力を感じずにはいられない。
壮大な自然の前では私なんてちっぽけな存在で、取り巻く全てが私の意思とは関係なく成るべくしてなった事なんじゃないか、とすら思える。
だとすると、あの星が瞬いた瞬間には、既にこうやって2人で夜空を見上げると言う未来が決まっていたのだろうか…?
どれぐらいそうしていたのか、気が付くとヒロインちゃんは私の肩にもたれて小さな寝息を立てていた。
あどけない寝顔がたまらなく愛おしい。
私はヒロインちゃんの肩にショールを掛け直すと、また空を仰いだ。
もし全てが必然だったのだとしても、私はこの奇跡のような出逢いに感謝せずにはいられない。
あの星の光が、途方も無い時間を超え地球へと辿り着いたように
ヒロインは果てしない暗闇の中で迷っていた私が見付けた一筋の光だから。
end
宇宙や命の神秘に想いを馳せる知的なソウシさんです。
んー、私の中で漠然と書きたいイメージがあったんですが上手く表現しきれなかった(ーー;)
宇宙の知識が恋海の時代にあったのかどうかは分からないのですが、深く考えずに読んで下さいねσ^_^;