ナギ 2

□緋い花
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厨房での仕事を終え部屋に戻ると、ヒロインが出掛ける準備をしていた。


令嬢の格好をして緊張で顔を強ばらせたヒロインは、何だか知らねぇ女みてぇに見える。



「そろそろ、行くね。」



ヒロインが俺の横をすり抜けて行く。



「…待てよ。」



部屋を出ようとしたヒロインを呼び止めた。



「何で、シンを選んだ?」


「そ、それは…」


「答えろよ。」



眉を歪めヒロインが視線を逸らす。



「……ナギじゃ、無理だから。」



唇からこぼれ落ちるように呟かれたその言葉に、一瞬で胸の中の炎が大きく燃え上がった。



「んだよ、それ!」



ヒロインの腕を掴んで力任せに壁に押さえ付けた。



「俺は…そんなに頼りねぇか?」



こんな時、お前が選んだのが俺じゃねぇなんて


お前が命を預けられると思える男は、俺じゃねぇって事か?



「な、んで…」



絞り出したような自分の声が耳の奥に響く。


力いっぱいヒロインの腕を掴んでんのに、足元が崩れてお前から離れて行くような感覚がする。




「…だって、無理に決まってる。」



壁に押さえ付けられたまま、ヒロインがゆっくりと口を開いた。



「私がナギをただの付き人として扱うなんて、演技でだって自信無い。」



その言葉は、俺が想像もしていなかったもので



「ナギの事が大好きだって、絶対態度に出ちゃうから…嘘ついて取引きしてるのがバレちゃう。」



恥ずかしそうにそう話すヒロインを、俺はただ馬鹿みてぇに見つめ続けていた。



「もー、恥ずかしいから絶対絶対言いたく無かったのに!!ナギの馬鹿ー!」



顔を真っ赤にして喚いてるその姿は俺の良く知ってるヒロインそのもので


俺は握った手を緩めると、ヒロインの身体をそっと抱き寄せた。



「…手、痛かっただろ。悪かった。」


「ううん、私がちゃんと言わなかったのがいけなかったんだし。それに、ナギも痛かったよね。」



…そうだな。



情けねぇぐらい



心が、痛かった。




「私、ナギの事頼りにしてるよ。世界で1番信じてる。」


「ああ、分かってる。」



本当は、ちゃんと分かってんだよ。それなのに…



その時、ノックの音が狭い船室に響いた。



「ヒロイン、そろそろ時間だ。早く来い。」



シンがヒロインを呼びにきたみてぇだ。



「私…もう、行かなきゃ。」



スッと身体を引くと、寂しげにヒロインが笑った。


俺はヒロインの服のボタンを手早く外し胸元をはだけると、その白い肌を強く吸った。


チリ、と小さな音を立てて、ヒロインの胸に真っ赤な花が咲く。



「ナギ?」


「…お守り、みてぇなもんだ。俺は一緒に行けねぇからな。」



こんな事する柄じゃねぇって分かってる。


だけど、ヒロインの身体に何かを残したかった。


そうすれば、離れていても一緒にいるように思える気がして…




「ナギ…ありがとう。」



俺が残した真っ赤な痣に触れ、ヒロインが柔らかく笑った。


その笑顔に胸の奥のどこかが締め付けられる。



ヒロインの腕を手繰るように引き寄せた。



「……早く、帰って来いよ。」


「うん。」



ヒロインを抱く腕に力を込めると、頭のてっぺんに柔らかく口付けた。



こうして、お前を俺の中に閉じ込めてしまえたら…



お前がいねぇと、どうにかなっちまいそうだなんて



(マジで、柄じゃねぇな。)




瞼の奥で、真っ白なヒロインの肌にぽつりと咲いた花が揺れている。



俺は何度こうやって、ヒロインの肌に真っ赤な花を咲かせただろう。


その時々によって状況は違ぇが


大抵、どうしようもなくヒロインが欲しい時に俺はそうしてる気がする。



いくらキスをしても、強く抱いても



それでも足りねぇと感じる時



俺の中に燻る炎が、ヒロインの肌に花を咲かせる。





俺の想いを糧に、永遠にヒロインに咲き続ける花。



その色は俺を焦がす炎と同じ



赤より赤い、燃えるような緋い花。







end










→後書き



 

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