時越えし緑

□時越えし緑
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着いた場所は校舎裏の一角で、タイムカプセルを埋めた場所に木の板が目印として埋められている。

そこそこの人数が集まって賑わっているが、今ではもうほとんどの人の顔がピンとこない。

しかし、前から人の名前と顔を覚えていることが得意ではない俺は特に気にしなかった。

「みんな、拓海がきたよ」

「久しぶりー」

語尾をのばして緩く手を上げながらご挨拶。
するとその場にいた全員が振り向いた。
振り向く勢いが良すぎて地味に怖い人が二人いる。

怯んで少し後ずさる俺に、優人は笑顔で背中を軽く押す。
それと同時に振り向く勢いが良すぎた二人が同時に寄ってきた。

「拓坊久しぶり!」

「お前は変わらんなー!」

笑いながら俺の肩を叩いてくる二人。
この痛さも久しぶりで忘れかけていた分痛さ倍増だ。

俺を拓坊と呼ぶのは秋奈(あきな)。
ロングストレートの髪の毛につり上がり気味の目。
見た目は所謂デキる女ってやつ。
男勝りなさっぱりした性格で付き合いがしやすい。

もう一人は健(たける)。
がっしりした体つきで体育会系。
明るく気さくな性格でこれまた付き合いやすい男だ。

二人とも良いやつだが、俺をいじる時は二人でく
るから厄介だ。
今も懐かしいと言っては俺の頭をなでくりまわしている。

逆らうと長引くのを知っている俺は二人の気がおさまるのを待つだけだ。

「二人ともそれくらいにしたらどうだ?」

「拓海君の髪がすごいことになってるよ……?」

終わりを待って遠い目をしていた俺へと近づく足音と助けとも言える声が聞こえてきた。

乱れた髪の毛をそのままに見るとこちらも懐かしい二人。

整った髪型におしゃれな眼鏡、クールなインテリ系の理央(りお)にウェーブのかかった髪の毛にたれ気味の目が印象的、優しい性格で癒し系の美架(みか)だ。

優人を含めた五人とは小学生の頃から一緒に遊んでいた。
みんなタイプは違うが仲良しで不思議なくらいだ。

「しょうがないなー」

「今日はこれくらいにしとくか」

理央と美架の言葉に二人は渋々ながら頭から手を退けてくれた。

(――助かった……)

髪の毛を直していると後ろから微かな笑い声が聞こえ、俺はじろりとそちらを見る。

「何笑ってんだ優人」

「ごめんごめん。懐かしくてつい」

目を細めてまだ笑う優人の脇腹を肘でつついてやった。






かつての学生時代のようなやり取りを終え、俺達は他の
元クラスメイトが集まっている場所へ向かう。
正直覚えていない人が多数だが、それとなく声をかけておいた。

「それじゃあ掘り始めるよー!」

なぜか張り切って仕切りだした秋奈だが、誰も異論は唱えずみんな動き始める。

俺もみんなに続いてシャベルを手に取る。

(まさかこの年になって穴掘りをするとは思わなかった……)

すっかり忘れていた俺にとって今回の話は寝耳に水のようだが、みんなは覚えていたのだろうか。
隣にいた美架に聞くことにした。

「なあなあ。美架はタイムカプセルのこと覚えてたのか?」

俺が聞くと、彼女には不釣り合いなシャベルを持った美架が柔らかく笑う。

「うん、覚えてたよ。いつ掘り出すのかなって楽しみにしてたんだ」

花が飛んでいるような笑顔の美架に俺は忘れていたとは言えず、「拓海君も覚えてた?」の言葉に「お、おう」としか返せなかった。

少し離れた場所では秋奈と健が嫌な笑みで俺を見ている。
あいつらにはお見通しのようで馬鹿にしたような顔が少し腹立たしい。

「私達も掘ろっか」

「ああ、そうだな」

美架の笑顔に癒されつつ、タイムカプセルを見つけるべく俺達も掘り始めた。


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