カプ要素のないss
□りんご妖怪
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シャイナが先日の任務に関する報告書をまとめ、教皇宮執務室に提出した頃はもう正午近くだった。
教皇補佐のサガに書類を受け取ってもらい鼻歌まじりで機嫌よく12宮を下っていたら何故か主神であるアテナ沙織が天蠍宮の私室の前でウロウロしている。アテナが個々の12宮の私室を訪れることは非常に珍しくシャイナは首を傾げた。
「あの〜アテナ?沙織さん?どうしたんですか?」
「ああ、シャイナ。ミロはいないのでしょうか?」
アテナの小宇宙が天蠍宮に留まっているのに守護者のミロが沙織を無視することは絶対にない。シャイナから見ればふざけた男だが、アテナ沙織を信奉する彼もまごうことなきアテナの黄金聖闘士だった。
「たぶんいないんだと思いますが、ミロに用事があるなら部屋に入って待ってればいいのでは?ここはアテナを守護する12宮ですよ?」
「ええ、でも私室に入るのは気が引けるわ。私がアテナだと言っても彼らにも生活があるでしょうから」
「別にいいと思うけどね。ミロになんか用事があるんですか?」
シャイナがそう聞くと沙織はパァァと顔を輝かせて言った。
「それがね。シャイナ。私先日アイオロスにりんごをいただいたの。そのりんごがとーっても美味しくって。ほっぺたが落ちそうだったわ。アイオロスに聞いたら天蠍宮のりんごだと言うじゃありませんか」
「はぁ」
「とってもおいしいからもう少し食べてみたくって。ミロにもらいにきたのです」
「それなら尚更だよ。勝手に入って取ってくればいい。裏庭にあるよ。
でもミロに持ってこさせりゃいいのに」
「え、でも・・」
「裏庭には私室を通らなきゃいけないから勝手に入ればいいんですよ。いつ帰ってくるかわかんないんだし」
そこまで言ってシャイナはハタと考えた。
聖なるアテナに成人男子御用達のいかがわしいものを見せてはならない。そういった類いのものは数日前シャイナが全部始末したはずだ。
勝手知ったる天蠍宮。昨日の夜にはそんなものはもうなかった、と思う。
うん、大丈夫。瞬間頭の中で考えを巡らし大丈夫大丈夫を繰り返す。
「あの、シャイナ?」
「あ、ごめん。私も行くから行こう沙織さん。りんご取ってあげるよ」
「本当ですか?うれしい!」
「うん。入ろう」
そして沙織は遠慮気味にシャイナは毎日入ってるので全く遠慮なく天蠍宮に入っていった。
「こっちだよ」
広いリビングを通り抜けキッキンを抜けると裏庭に通じる勝手口をシャイナが開ける。沙織は白い女神のドレスを翻してうれしそうにシャイナについていく。
勝手口を通ると裏庭にはたくさんのりんごの木が植わさっていた。
この天蠍宮のりんご。
植物の世話などできるはずもないおおざっぱなミロが植えたものではもちろんなく、ミロが天蠍宮を任された時にはすでに存在していた。おそらく先代以前の天蠍宮の守護者が植えたのだろう。そしてこのりんご。アテナの小宇宙のおかげか天蠍宮の主のおかげなのか定かではないが不思議な事に一年中実っているのだ。
「どれがいい?好きなの取ってあげるよ」
どのりんごも真っ赤につやつやしていておいしそうだ。
「どれがいいかしら?」
うーん、と沙織が迷う。
「シャイナ。わからないわ。良さそうなの取って下さい」
「了解!」
シャイナはほぼ毎日ここのりんごを食べているのでだいたいどれがおいしいのかわかる。上の方まで上り少し考えた後3つのりんごをもいできた。
「この辺がいいと思うよ」
「まぁ、きれい!」
りんごを見ながらそんなやり取りをしていると沙織はどこからか視線を感じた。
『・・・???』
沙織がキョロキョロ辺りを見回すのでシャイナも辺りを見回してみる。
「どうかしたの?」
「いえ、あの誰かいませんか?」
もう一度周囲を見回すがシャイナは何も感じない。
「いないと思うよ。こんなとこ誰も入って来れないし」
「そうですよね」
んーと頭を捻りながら沙織はシャイナとともに天蠍宮の私室に戻った。
そういえばここのりんごはもともとわりとおいしかったのだが、ここに2、3カ月で格段に味が良くなったように思う。前はその辺の市場で売ってるくらいの物だったが、いつの間にかどのりんごにもたくさんの蜜が入ってとても甘くみずみずしいおいしい実になっていた。しかし毎日食べてるのでシャイナもミロもあまり気にしていなかったのである。