野良猫ギターマン

□レッツラゴー!
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校舎の1階。
奥の奥の端っこに、ひっそりと存在するその空間。
放課後、そこは私の書斎に変わる。


2年3組、増田若菜。
私は毎日ここで、小説を書いている。


一応、文芸部という部活動。
でも、部員は私1人。
常に部員募集中だけど、根暗なイメージがあるのか、残念ながら希望者がいない状態。


ちょっと寂しいけど、まぁ仕方ないと割り切っている。
1人の方が思う存分自分の世界に入れるし。


この場所は、元は新聞部の部室だった。
数年前に新聞部が廃部になり、それからは使われていなかったらしい。


学校新聞のバックナンバーの束とか、何が入っているかわからないダンボールの山とか。
ほとんど物置きみたいになっていて少し狭いけど、その狭さが心地良くもあった。


新聞部時代の名残で、パソコンとプリンターが備わっている。
それが、私がここに居付くようになった理由だった。
パソコンは少し古いけど、小説を書くのには十分だった。


開け放した窓から吹き込んでくる優しい春風が気持ちいい。
グラウンドから聞こえる運動部の掛け声。
それをBGMに、私は今日も1人、創作活動にいそしんでいた。


「うーん…。ここの展開、もうちょっとなんかないかなぁ」


ストーリーがしっくりこなくて手が止まる。
調子のいい時はスラスラ書けるけど、悪い時はどう頑張ってもダメだったりする。
まぁ、そんなにこだわってみても誰に見せるわけでもないし、所詮は自己満にすぎないんだけど。


「こらあぁ! 佐波! 舟木! またお前らかー!」


突然、静かな校舎に怒号が響き渡った。
あの声は…おそらく、生活指導の福田先生。
それと一緒に、ぎゃはははーって笑い声と、複数の人間が走るバタバタという音も聞こえる。


私がいるこの部室のまわりは、普段からあまり使わない教室ばかり。
放課後になるといっそう人の気配がなくなるから、廊下の騒ぎは多少遠くても丸聞こえだ。


サナミとフナキ。
その名前を聞いて、私の口元が自然に緩んだ。


この学校で一番目立っている2人。
「レッツラ」の佐波先輩と舟木先輩。


あの2人、また何かやらかしたんだな。

 
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