サマーメモリーズ

□16.
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「憶えた?」

その言葉に、健二はハッとする。

夕飯のテーブルにずらりと並んでいる親戚一同の視線が、全て健二に集まっている。
夏希はずっと、一人一人親戚の名前を説明していたのだが……正直、何も頭に入らなかった。ただ、夏希の手書きであろう親戚図に描かれている犬の絵を見ていたら……時が過ぎていた。
しかし、「いいえ、全く!」と言う訳にもいかず……


「はあ……いや、どうかなぁ……」


そう、答えておいた。自然と肩に力が入り、顔が赤くなる。

「ま!取り敢えず、」

それぞれが「よろしく」と言う。割とバラバラだ。「よろしくお願いします」という健二の小さな声は、やはりそれぞれの雑談に消え入った。

健二は極度に緊張していた。
頬は引き攣るし、厭に心拍数が落ち着かないし、上がってしまって、頬が熱くなる。じんわりと両手が汗で滲む。―――知らない人に囲まれるのは、苦手だった。まして、食事なんて……


「それ、なまえが描いたんだよ」


夏希に突然話しかけられて、健二はビクリとした。
隣を見れば、ほら、「その犬」と指差している。
そこにはさっきずっと見ていた、犬の絵があった。顔はそれなりに犬っぽいけれど……体は、なんだか……火星人?


「ねーなまえ?」
「ふぁっ?」


何が?と理一の隣に座って居たなまえが、健二を見た。


「これどう見てもクラゲだよねー?」
「なっ、ちゃんと犬だし」
「絵心があるじゃないか」
「理一お兄ちゃんまで……!」
「健二君もクラゲに見えるよね?」
「……犬に見えるよね?」
「えっと、じゃあ……」


ニコリと、夏希が笑いかける。
なまえがジト目で見る。

健二は顔が赤くなった。
目を泳がせていると、なまえの皿が目に映る。―――イカ、ばっかりだ。



「―――イカで」
「うん!?」
「あっ!確かに、そう見えるかも! 」
「んっ!?」


健二はなまえを見て思わず笑ってしまった。
肩の力は緩んでいた。


          ●●

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