そのた
□新聞部の一年生
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「七不思議――か。」
日野は顎に手を当てながら、ス、と横目に窓の外を見た。
彼の前には坂上が、そしてなまえが立ち、じっと日野を見上げている。
坂上はややポカンとした様子で、なまえは真剣な眼差しで見上げている。
そういえば、と日野は視線を戻す。
「今年の夏に、旧校舎が取り壊されるらしいな」
その一言に坂上となまえはパチリと瞬きをし、お互いに顔を見合わせた。
なまえはまた、すぐに日野へと視線を戻す。
坂上はそんななまえの横顔を見る。
そして、日野を見る目はいつだって真剣だ、と感想を抱いた。
なまえは、日野のテキパキとした視線、言動、思考、仕草、全てに憧れているのだ。
日野は独り「うん」と頷いた後、口を開く。
「丁度良い。それに合わせて、恐怖ネタ……なんて面白そうだな」
恐怖ネタかぁ、と坂上はぼんやり思った。なまえはペンを走らせる。
……え?それメモ要る?と坂上は隣を二度見してしまった。
「うん。それでいこう。七不思議にまつわる話なんて良いんじゃないか」
チラリとノートから視線を上げたなまえは、まさか日野と目が合うなんて思っておらず動揺した。
「あ、でも私っ、七不思議って知らなくて……」
「大丈夫。それについて知っている人を部室に集めておくから」
ぽん、と頭に手を乗せられたなまえは「そ、うですか、すみません……」と謝る必要が無いのに誤った。頭が少し沈むさまを見て、坂上は「このままさらに縮むのではないか」という気がした。憧れの先輩に笑いかけられ、それも頭を撫でられて、なまえは嬉しそうに……というよりは、本当に恐縮してしまい何だか蒼ざめているようにさえ見える。
二人は―――気付かない。
そんななまえを見下ろす日野の目に
例えようのない影が差したことに。
それは絡んでグシャグシャになった糸よりも複雑で、
憎悪、愛しさ、悲愴、愉悦―――
「そうとなれば決まりだ。さて、この企画。折角だから新人である二人の内どちらかに頼みたいのだが―――」
なまえはパチっと目を開くと、ハイ!と手を上げた。
その勢いに、二人は少し驚いた。
窓からふわりと、涼しい風が入る。
一瞬、空気が止まったがなまえは真剣な眼差しのまま、日野を見上げた。
「あのっ……よろしければ、私に担当させていただけないでしょうかっ」
ぎゅっと眉が上がっているその眼差しは、一生懸命そのものだ。
少しでも気を抜けば今にも崩れ落ちそうな――そんなギリギリで危うい境界線にある一生懸命さだ。
そんななまえに、日野と坂上は数回瞬きをした。
「でも、なまえちゃん……」
「大丈夫、なのか……?」
“怖い話とか、死ぬほど苦手なんじゃないの”
綺麗に揃った二人の声に、なまえは負けぬようぎゅっとメモ帳を握り締めた。
「はい、大丈夫です、あの、苦手ではありますけどこれを期に精神力を鍛えようと思いましてっ私強くなりたいって思ってジョギングとか始めたんですけどそれだけじゃ駄目だから精神力が欲しいと思ってだから丁度良いなって」
ここまで息継ぎ無しである。
顔が赤い。その所以は羞恥心では無く、力んだことにある。
ぐっと眉を上げ見上げるなまえを、日野は「わかったわかった」となだめた。
「よし。ではみょうじに任せようではないか」
その瞬間、なまえは目を見開いた。
見開いたまま静止した。
そして少し経った後、ぱっと華やいだ。
自分を指差し、パッと坂上へ顔を向けたなまえに、坂上はうんうんと頷く。
なまえは少し静止したのち、日野を見上げた。
「ありがとうございます」
その本当に嬉しそうな笑顔に、
坂上は少し頬を赤くした。
そして、その笑顔の対象である日野に
少しだけ―――
少しだけ、嫉妬した。
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原作では「今度の新聞で、うちの高校の七不思議の特集を組もうぜ」という台詞で始まりますが、おやおや?(おとぼけ)
何やら裏のありそうな日野さん。