そのた

□硝子細工のような
1ページ/1ページ



「そうだなあ、さて―――」


風間はコトリ、とコップを置いて、ふうと短く息を吐いた。
なまえは素早く紙コップへと茶を満たすと、姿勢よく椅子へと着席した。着席して間もなく、ペンとメモ帳を取り出し構える。


「ここはひとつ、なまえちゃんの為に。特別予行練習をしてあげよう」


勿体ぶった大仰な言い方。
しかしこれも彼が意図的に行なっているのではなく、先天的な自尊心めいたものがそうさせたのだろう。通常ならば何か無意識の内に引っ掛かりを覚えそうなものだが……なまえはそうでもないらしい。それどころかやはり、大真面目な顔で見詰めている。
見詰めて―――

なまえは、頷きかけた頭を止めて目を瞬いた。


「よ、予行……練習……?」
「その通り!」


弱々しいなまえの声を、風間が大きく肯定する。


「のろまそうな君の失敗を少しでも防ぐためにも、取材の練習として今から僕が怖い話をするのさ。ありがたく思いたまえ。本番も合わせれば君は、この僕から直々に二回も話を聴けるのだからね」


風間は得意げな顔で、にやりと口角を上げた。


「――こ、」
「ん?」


床にペンが落ちる音にも負けそうな、掠れる声。

風間は思わずなまえを見た。
なまえはぴしゃりと固っていたかと思うと、ぷるぷると震えだした。ただでさえ白い顔が、今では青白くなっている。


「こ、こここここここ」
「!?」


やっとのことで「怖い、話……!」と口にしたなまえ。ついには可哀相な程に震えだした。なまえのすぐそばの席に座っていた風間は思わず手を伸ばす。


「ちょ、そんなんで本当に大丈夫なのかい?」


その背に触れた風間は、やや身を屈めてなまえの顔を覗く。


「怖い話の記者を務める人間がそんなに怯えてしまっては、先が思いやられ―――」


そこで風間は、言葉を止めた。
見上げるなまえの瞳が――潤んでいる。
涙に揺れる大きな瞳。

まるで、
吸い込むような―――



「あ――」



動揺する反面、心臓が小さく跳ねる。













「――いや、ははは!案ずる事なかれだぞ、なまえ君!」


バシリと背中を叩かれて、なまえは息を詰まらせた。……というか、本気で華奢ななまえはやや肺に支障をきたし咽た。


「僕を誰だと思っている?」


誰であろうともなまえの臆病さには関係ない……筈であるが、なまえは涙を振り払うように二、三度頭を振ると、真っ直ぐに風間を見上げた。





「エスパーです。」





台詞はともかく―――真っ直ぐな瞳。



弱々しく、怯えて。
か細く、震えて。

でも、見詰める瞳は純粋で
硝子細工の様に曇りなく、真っ直ぐで。


例えるならば、そう
今にも踏み潰されれ、食べれらてしまいそうな
弱肉強食の世界で怯えている
無力で幼く弱々しい小動物。






風間は、なまえを――
なんだか、





































可愛いと、思った。































-------

風間さんが揺さぶられた瞬間ですね、はい。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ