サイレント

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宮田司郎
羽生蛇村/宮田医院
初日/14時58分40秒


「いたっ!」

と肩をビクつかせたなまえに、宮田は単調に「そうですか」と言った。


「そうですかってどういう意味なん――いっ!?」
「動かないでください」
「すみません、でももうちょっと優しく―――だぁあっ!!意図的ですか!?これ故意ですか!?」
「全く……教会での良識ある仕草や御淑やかさはどこへ行ったのですか」
「あ!あれ上手くいってましたか?ちょっと頑張ってみたんです」


明るい口調でそう言って、なまえは笑った。宮田は『この人は……』と閉口し、侮蔑っぽい視線を送ってみた。が、幸せ者なのかなまえは気付かず、クルクルと巻かれる包帯を、興味深そうに眺めている。宮田は無言で巻き続けていたが、不意に口を開いた。


「……珍しいですか?」
「はい、とっても。珍しいって言うか、面白いです」


宮田は声を掛けたかと思うと、やはり「そうですか」で結んでは口を閉ざす。
素っ気ない態度だけれども、なまえは特に何も思わなかった。それどころか、ピンセットや消毒液を見て目を輝かせている。宮田はそんな様子を横目でチラリと見た後、数秒間何か考えて口を開く。


「もう少し、詳しく聞かせていただけませんか」
「?」
「朗報、そして儀式を行う必要が無くなったとは、一体どういう事なのです?」


なまえはキョトンとしたが、やがて表情が華やいだ。


「信じていただけるのですね……!」
「――……」


フワリとした期待に満ちた、笑顔。その笑顔に、再び宮田は『引っ掛かり』を覚える。とは言え、それは何なのか思い当たらないし、とても些末なことのように思えて深くは追及しなかった。本人の意思とは関係なしに、そう言った心理が働いたのだ。


「それとこれとは話が別です」
「ゑ」


しれっとした口調に、なまえは落胆しながら「儀式、儀式の話からしますね、はい……」と続ける。

そこでフと、なまえは動きを止めた。

彼女、八尾さんの罪そして罰、それは果たして誰彼の区別なく話していいものなのだろうか。すべてを話してしまったならば、それは、八尾さんを傷つけてしまうことにならないだろうか……?

全てを知っているなまえは、そんなことを思った。
それは、それは避けたいことだった。なまえはしばらく視線を泳がせたが、唇を小さく噛んで俯いた。
やがて、顔を上げる。


「秘儀を行う必要が、無くなったのです。」
「省きすぎではありませんか」


「何一つとして説明できていませんよ」という的を射た宮田の発言に、なまえは「うん、まあ、そうなんですけどね」と曖昧な口調で言った。


「短絡的に言うと、その儀式を行う根本的な理由が解消された、といいますか……」
「それが、あなたの言っていた『神への説得』が関与しているのですか?」


宮田の的確な見解になまえは目を丸くして、頷いた。しばらく俯いてしまったなまえを余所に、宮田はなまえの言葉やメモを参考に、話を繋げてみる。


―――儀式。
それを行う根本的な理由は、やはりなまえによる『神への説得』に関係している。

ならば、『儀式を行う根本的な理由』とは、堕辰子を飢餓から食べてしまったことに関係しているのではないだろうか?なぜならなまえは不満気に『飢えているため食べてしまうのは当然だ!』やら『弱肉強食だ!』などと言っていたからだ。それが説得する際の彼女の主張だとすると、その相手(つまり堕辰子)はそれと反対の意見を持っていた筈。『神を食すなど赦されざる冒涜』と言った具合だろうか。

生贄として生身の生きた人間を捧げる……
それは、神への償い、贖罪を意味するのでは無いだろうか。
赦しを乞う為の、行為。

生贄が神代家から差し出される限り、『神を食した人間』とは、神代家の先祖に関係があるのように思える。

なまえは教会に忽然と姿を現したときに、真っ直ぐに八尾さんだけを見ていた。まず最初に、八尾さんに伝えたいことがあったのだろう。それは単に、八尾さんが求導女だから……?それならば、求導師でも構わないのではないだろうか。否、単に『権限を持っているのは実質求導女である八尾さんだ』と言う事に気付いていただけなのかもしれない。ただ、神代と八尾さんの関係……それが、良く解らない。

朗報……
儀式を行う根本的な理由の解消……
『朗報』とは、つまり―――



「貴女がお伝えしたかった朗報とは、『神に赦された』という事ではないのですか?」


その言葉を耳にした途端、なまえは大きな瞳を見開いた。窓からの明るい光をいっぱいに取り込んだそれは、まるで硝子球の様だ。


「そう―――その通りです」


驚いたような、感心したような表情。
宮田は曖昧な意思で、その表情をじっと瞳に捕えていた。

     














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宮田さん頭の回転速すぎ!
でもとっても好都g(ry
    

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