サイレント

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なまえ
羽生蛇村/宮田医院付近
初日/15時33分27秒




走るよー!
私は再び走るよー!!


色々と『あ、これやってらんないな』と思い始めた私は明るく元気に朗らかにそんなことを心の中で叫びながら、気持ちスキップ的な感覚で(あくまで気持ちだよ!じゃないと足がもつれちゃうからね)忙しなく動かしていた足を、ふと速度を緩め、佇んだ。


……あれ?
このまま猪突猛進し続けていたら……また迷うんじゃないだろうか。


なまえは今更過ぎることをやっと考えた。
宮田医院からある程度離れている今、なまえは素早く周囲を見渡すと、そこら辺の茂みに屈み、額をグッと抑える。

「思い出せぇ……思い出すんだ私ぃ……」


この羽生蛇村をずっとずっと見ていたんだ。だから地図が解らなくとも映像の記憶を頼りにヒントを得る事が出来ないだろうか。


『―――宮田です。神代の使いで来ました』


ああ、違う違う。
これは『未来を映す』という人間にとってはチートレベルな鏡で見た光景だ。
これじゃなくて、現在の―――




―――あれ……?嘘、


どうしよう
思い出せなく、なってきてる……?


















―――ああ、そっか。

きっと、
人間になってしまったから、
天界の記憶が薄れてきているんだ……。





それは、非常にまずい事だ。
もしもすべてを明かし、伝える前にすべての記憶が無くなってしまったとしたら……?

私の苦労が水の泡?
そんなことはどうでもいい。問題なんかじゃない。


大切なのは、
この村がまた幾千もの間……否、
永遠に悲劇を繰り返してしまうという事……













そんなのって




















……あんまりだ。



















はいっ!
だから早く思い出してよ私ィ!!

もう一度今度は両手でこめかみを抑え込み
集中して目を閉じた。

























『―――宮田です。神代のt』



これじゃないってばぁ!!


「っていうかあのシーン逆光仕事しすぎでしょう!!」と喚きながら、なまえは思い切り地面を叩いた。
数秒間そのまま俯いてが、不意に顔を上げる。


……ん?『神代』……?
あそこには美耶子ちゃんがいる。


そうか、そうだ
誰よりもまず、彼女に伝えないと。

苦しさに順位なんて無いけれど

それでも

まだ幼い彼女は

いっぱいいっぱいで



擦り切れてしまいそうで――



だから
一刻も早く、伝えなくては。




なまえはチラチラと思い出す断片的な風景を紡ぎ、どうにかして神代家への道をおぼろげながらも思い出す。
そして立ち上がると、土も払わず再び駆けだした。地面を蹴るたびに彼女の髪が、服が、後ろへ後ろへと靡く。





くそう!
堕辰子さんが私が何とか作ってみた地図捨てちゃうから悪いんだ!苦手故に苦戦しながらも折角完成させたのに!

知ってるんだからね、私。
その地図捨てた理由が

『羽生麺の汁零したことを隠蔽しようとした』

ってこと知ってるんだからね!!何だよ羽生麺って!どうやって入手したの!?
っていうか「ハッ!人間とかチョロチョロ鬱陶しいだけだし」とか言いながら何ちゃっかり食べちゃってんの!?人間の素晴らしき文明開化にちゃっかり浸っちゃってもう!!


ちくしょう!堕辰子さんなんてキライだ!
『物真似ですか?上手いですね!サイレンの音』って言ったら
『え、これ地声やねんけど』
って返して気まずくするくせに関西弁というボケをかます堕辰子さんなんて大キライだ!!野美宿祢(ノミノスクネ)さんの埴輪コレクション観賞に強制参加させられてしまえ!!


なまえは憤りながら力強く駆けて行った。







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堕辰子さんパネェ

なまえェ……

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