サマーメモリーズ
□02.
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「あれ、何だったんだろう……って、」
早く皆の所へ行かないと、と視線を戻す。
すると夏希先輩がどういう訳か全力疾走してこちらへ向かっている姿が見えた。
こちらへ向かってはいるものの、どうやら僕を見ている訳ではないらしい。門の柱辺りを目指して走っているように見える。
凄いスピード、というか、迫力、というか何で―――
その時、門からひょっこりと人が現れた。
その人は、遠くから走ってきている夏希先輩には気づいていない様子だ。
「あ」
目が合った。
クリっとしているけど、どこか涼しげにも見える目元。スッと通った鼻筋。整っていることには変わりないが、美人か可愛いか、の一つに絞りきれないのは、その端正な顔立ちがやや中性的な印象を受ける所為なのか。
間違いない、この人が
さっきの、屋根に居た―――
「え、えっとっ!あの……」
じっと目が合っている事にハッとなって、声が上擦る。赤くなって目を落とす。それでもずっと感じる視線。
無言のまま余りに見つめられて、もう、どうしたらいいか、と思ってもう一度顔を上げようとしたとき、
その人の後ろで、夏希先輩が地面を蹴り浮いていた。
そして、そのまま―――
「なまえーーー!!!!!」
「えっ?ぅおわあっ!!」
ギューッと締め上げる勢いで、なまえと呼ばれた女の子?女の人?(いくつなんだろう?)に抱きつく、先輩。一度離したかと思うとそのままその人の肩を掴む。そして自分の方に正面が来るよう半回転させたかと思うと、
「ぐぅっ……!!」
再び容赦なく抱きしめる。
あの……大丈夫なのだろうか。
「なまえー!なまえなまえなまえ!!」
「ちょ、ちょっと力強……ぐぇっ」
「だってずぅぅぅっと会えなかったんだもん!スケジュールが合わないとか何とかで!」
「別に、避けてたわけじゃないんだけどね」
「そんなことしたらもう『こいこい』禁止の刑だから!!」
「死活問題じゃないか」
そんななまえに、夏希は嬉しそうに笑った。
よくわからないけれど、夏希先輩はこの人が大好きなんだろうなあと、安易に想像できました。そして僕は、ただただ立ち尽くしていました。作文。
***
「っていうかなまえ、どこにいたの!?」
「ちょっとこの上に」
ちょんちょんと屋根を指差す、なまえさん。その指先を追って、僕が、夏希先輩が、見上げる。
「……」
夏希先輩はその意味を理解した途端、
「何やってんの!?」
大きな声で吃驚した。なまえさんはそんな夏希にちょっと吃驚する。
「えっ、ちょっとボールなくしたから見渡してた」
ボールかぁ、健二はなまえをぼんやり眺める。
「あ、まーた犬とサッカーしてたの?」
「(えっ……?)」
健二は思わずなまえをみた。
なまえはこくんと頷いている。
え、え。
あっちの方に転がってるんだ、となまえは指を指し、振り返る。そこで健二と再び目が合う。
健二は完全に忘れられていた気がした。
「あ、この人だよ。」
「へっ?」
「あぁ、君が……」
そこでなまえさんは、ニヤッと意味深な笑みを浮かべた。こういう表情もするのかと、ちょっと以外だった。
なまえさんはそれ以上何も言わず、「ちょっとボール取りに行ってくる」と残して歩きだした。
「すぐ戻ってねーー!」と大きな声で言う先輩に「うーーん」となまえさんは前を向いたままひらひらと手を振った。なんだか、不思議な雰囲気のある人だ。
無意識に目で追っていて
「さ、行こっか」
その声にハッとし、慌てて着いて行った。
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