サマーメモリーズ

□03.
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何がどうなってこうなったのか良く解らないまま、健二は夏希に家の裏へ連れられた。

突然の「彼氏」越えて「お婿さん」発言から「命を懸ける」プラス「幸せにします」というもう非道な程に重量感が物凄過ぎる約束。
さっきから「無理です無理です」言っているものの、夏希先輩の事情とそれへの思いを無下に断わりたくはないけれど、でも、それにしたって―――わああああ手がぁぁ!僕は今手を握られ……!!!

「わっ、解ります、先輩の気持ち」

頭に酸素が回らなかった。呂律は回った。
ありがとう!と先輩は嬉しそうな笑顔を浮かべている。手が放れた事を喜んでいいのか、残念に思っていいのか……。
それでも少しは、落ち着けた。はぁ、とやっとまともな呼吸をする。と、


「やぁ、フィアンセ君」
「ブッ!!!」


落ち着いた矢先に再び乱された。
余りに刺激の強すぎる単語に大いに動揺しながら横を見ると、片手を上げ「やぁ」ときょとんとした表情で言っているなまえさんがいる。小脇にサッカーボールを抱えている。……あっ、ボール見つかったんだ。
って、そうじゃなくて!!


「フ、フィ、フィフィフィア―――」
「君も大変だね。」


その表情は、無表情、とは少し違うけれど、さして同情しているようには見えないし聞こえもしない。やっぱりキョトン、という表現が一番近いかもしれない。もしくは少し心此処に在らず……あれ?違うかな?


「設定。頑張ってね。」
「……せ、設定?」


夏希先輩となまえさんを交互に見ると、ふたりともきょとんとした表情で「そ。」と答える。


「聞いてないの?」
「えっ僕は何も―――」
「言ってないもん」
「え、あ、」
「あ、まだ言ってないんだ。」
「うん。」


もうやだこの人たちマイペース……!



「健二君、君は―――」


ずい、と寄られた。
なまえさんの目に映る僕は、赤くなっている。


「今日から君は、東大生で旧家の出でアメリカ留学から帰国したばっかりの健二くんなんだ。」
「はー……ぁえっ!?違いますよそれ人違いです!!」
「いいや、間違いないね」
「ええええ僕と真反対じゃないですか!やっぱ無理ですっ無理無理無理無理無理」
「余裕余裕ー」
「どう考えてもその発想には無理がありますってなまえさん!!!」


真っ青になった。これで赤くなれる人はきっとどうかしている。
無理無理としか言わない健二の正面で、夏希は不服そうに眉を寄せた。


「何でもやるって言った癖に……」
「うっ……」


それを言われては、何もいえなくなってしまう。助けを求めようとしたのか、気づけばなまえさんへ目を向けていた。


「……」


なまえさんは瞼を半分閉じて、じっとりとこっちを見ているだけ―――ってっちょっと待って口の前で「×」を作っているその人差し指は何!?あああきっと「フォロー?しないよ」みたいな意味なんだろうなぁああ!!

頬を膨らませていた夏希先輩が、くるりと再び振り返る。


「ね!たった四日間だけ!あとは別れた事にするから!お願いっ!」
「―――……」


パチンと手を合わせて、祈るように念じるように目をつぶっている先輩。
僕は、何も答えることができなかった。


なまえさんは……



























あれぇ!?なまえさん居なくなってる!!








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