サマーメモリーズ

□05.
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「はい、終わったよ」

テキパキと要領良く手当てされたそこを見て、なまえは思わず「おぉー」と声を漏らす。

「流石としか」
「ふふ、ありがとう。」

にっこりと微笑んで、ポンポンと頭を撫でてくれた。これ、理一お兄ちゃんの癖なのかなぁ……?


「―――で、」


真っ直ぐに、こちらを見た。
あぁその急に真顔になるの止めてください心臓に悪いです。


「その傷、どうしたの?」
「……」


なまえは黙って、斜め下を見る。そして


「……言ったら、どうせ怒るし」


ぼそりと、そう呟いた。
ぶっきら棒な音色の先を待つ、視線。


「あと、恥ずかしいし……」


蚊の鳴く様な、声。
無言の、間。


……理一は無言のフリをして、
実は上がる口角を堪えていたりする。

その事を知る由も無く、無言の圧力に耐えかねたなまえは、ぬぬぬ唸った後ついに口を開いてしまった。

「屋根から落ちかけたんですすみませんでしたっ」

不貞腐れたような怒ったような表情で、恥ずかしさから赤くなって白状するなまえに、理一は耐え切れなくなって笑ってしまった。

「―――は、」

くつくつと笑う理一を前にして、なまえは思い切り呆けた表情となった。そして見る見る内に、じっとりとした視線となる。
……からかわれたと、気付いたのだ。


「……馬鹿にした」
「からかっただけだよ」
「一緒だよ!」


「私からしてみれば一緒だよ!」と訴えるなまえに、「ごめんごめん、」と笑いながら、
悪びれる様子の無い理一。


「久しぶりだったから、つい」
「(ついって何が)」
「どう?元気にしてた?」


そう言って、また頭を撫でる理一お兄ちゃん。


「久しぶり……って言っても、1か月ぶり位だよね。」
「なまえにとっては、それは久しぶりと言わないのかな?」


視線を感じて、思わず俯く


「だって、前はもっと会えてなかった時期もあったっていうか、だから、その時と比較すると―――」


何を、言い訳してるんだろう。
少し考えてみる。

あれ?やっぱり私、
本当は、久しぶりだと思っ―――


チラリと見上げた私は、思わず表情が固まった。
……あぁこの人絶対確信犯だ……!!
口角がヒクつく


「本当は、解ってたりして」
「え?」
「ほら!また惚ける」
「だってなまえ、素直じゃないし」


ポンポンポンポン私の頭を撫でる。
くそう……いつまでたっても―――

不貞腐れた様に、爪先で床を蹴る。撫でる、に近いけれど。

「理一お兄ちゃんって、私を子供扱いばっかする」
「そうかなあ」

否、どう考えてもそうとしか言えないだろう。
この間、ずーっと頭に手置かれてるし。

「YES意外にないでしょ」

俯いたまま断言する。
理一お兄ちゃんはしばらく答えないで、やがて








「――――――さぁ、どうだろうね?」








その声が、何だか印象的だった。


え?と顔を上げようとした刹那、
腕を引かれ立たされたかと思うと―――


ぼすっ。


唐突に抱きつかれた。
背が高い理一お兄ちゃんに抱きつかれると、顔面が覆われる為横を向かないと呼吸が苦しくなる。加え、


「暑い今夏だよ」
「えー」
「えーて、お兄ちゃん暑くないの?」
「ちょっと暑い」
「えー」


えーと言いつつ、特に抵抗もしなかった。
お恥ずかしながら、小さい頃からずっとこの腕が抱かれている時は落ち着くから。


「その内なまえも、ぎゅってさせてくれなくなるのかなぁ……?」


しみじみとした声だ、と思った。
理一お兄ちゃんにしては珍しい声、だと思う。


「何で?」
「結婚、しちゃったりとか」


け―――!?
と言いかけて、そこで唐突に思い出した。



「健二くん!さん!!」
「えっ?」
「理一お兄ちゃん、今日はフィアンセ君が来るよ」
「―――え、」
「来るよって言うか、来たんだ」


なまえはするりと、理一の腕を抜ける。
理一は目を丸くして、硬直していた。

「フィ……?」
「うん、」









「―――お婿さん。」





なまえは、小さく微笑んだ。
そよ風に、なまえの髪が靡く。


今度こそ、
今度こそ理一は、声が出なかった。



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