サマーメモリーズ

□06.
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理一はただ、
目の前のなまえを見て硬直していた。


『―――お婿さん』


何でもないような表情で、照れる様子も、恥ずかしがる様子も無く、ごく当たり前の事の様に言った。

否、実際にごく当たり前―――なのかもしれない。

今までなまえからそういう話は一度も聞いたことが無かった為、勝手に安心していたけれど……


なまえだって、年頃の女の子だ。
何ら不思議なことではないむしろ、全くない方が珍しい。


その事を、常に知っていた癖に。
肝心な所で、意識の外にある事に気付いた。


本当は、単に
考えたくなかっただけかもしれない―――



目の前でこちらを向いているなまえ。
手を伸ばせば届くけれど、この両手は動かなかった。


「へぇ、そうなんだ?」


にっこりと、笑った。


「どういう人?」
「えっ?うーん……良い、人?」
「良い人?」
「うん。多分。……いやいやいや絶対。」


理一が訝しげな表情をした。
どうもなまえの様子がおかしい。
お婿さん、と口にするには、何だか……


「……なまえ、本当に好きなの?」
「えっ?」
「その人の事」
「…………は、」


思い切り目を丸くして、こちらを見上げてきた。
そして次の瞬間。


「ちっひ、違う違う違う!!私のお婿さんじゃなくて、夏希の!夏希のフィアンセ君!!」
「―――え、」


わたわたと忙しなく両手と首を振って、焦ったように否定した。
今度は理一が、目を丸くした。


「そう……なの?」
「そう!そうそうそう!夏希がほら、おばあちゃんと約束してたみたいで、この夏、連れて帰ってきて―――」


なまえは途中で止まったかと思うと、思い切りため息を吐いた。

「吃驚した……私にお婿さんとか、そんな訳な―――、っ、」


ぎゅっと、再び抱きしめられた。
本日二回目……だけど、
さっきより、力が強かった。
しっかりと背中と後頭部に腕が回って、押し付ける様に抱きしめられる。


突然の事で、上手く頭が回らなかった。
抱きつかれるのはいつもの事だけど、でも
何だか、雰囲気がいつもと違う気がして―――



「ちゃんと『誰の』なのか言わないと」



身体を離して頭を撫でる理一お兄ちゃんは、もういつもの表情だった。
困ったように眉を下げている。


「あ……うん、気を付ける……」




それでも私は―――









何でだろう?
変にドキドキした。


       
              
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SVO!

          

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