そのた

□副交感神経
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「早速始めようか。」


その言葉になまえは居住まいを正し、ペンとノートを握り直した。


「ああ、君。一つ忠告しておくが、ペンとノートは仕舞った方が良いよ。その方が行為に集中できるから、占いの感度が上がるんだ。」


なまえは「わかりました」と言ってペンとノートを勢いよく鞄に突っ込んだ。
どこまでも忠実かつ素直なその様子に、風間は「わんちゃんみたいだな」という感想を抱く。風間の目には、一瞬なまえの頭に犬の耳が生えて見えた。


「よろしい。ところで君、こっくりさんを知っているかな?」
「あの、聞いたことがあります。えっと、たしか、先ほど風間さんが用意した紙の上に十円玉を置くんですよね。そうして、二人以上の人差し指をその十円玉の上に置いて……」
「その通り!そうして、後はこっくりさんを呼び出して知りたいことを尋ねるんだ。そうすれば、こっくりさんがその十円玉を通して色々とお答えくださるわけさ。そして、尋ねたいことが全て終われば、こっくりさんにお戻りいただき、使った十円玉と紙はすぐに手放さなければならない。」


風間はテーブルに広げた紙のしわを伸ばす。


「今回は、そのこっくりさんを呼び出して守護霊様を占うというわけさ。それも高級霊のこっくりさんをお呼びしなければならない。低級霊が降りてくると取り憑かれることもあるから――」


そこで不意に、風間はなまえの異変に気づいた。


と、ととととと取り憑かれ……!」


なまえは顔を蒼くし、さらには呂律が回らなくなっている。目も回っている。
風間は少し動揺し、思わず少しだけ尻を宙に浮かせた。


「お、落ち着き賜えよ、なまえちゃん。僕はこっくりさんのプロフェッショナルだから心配な――」
「ご、ごごごごめんなさいっちょっとだけ手を握ってもいいですか?」


その発言に風間は吹き出しそうになった。
笑いそうになったのでは無い。動揺したのだ。
なまえは目を回しながらひょろひょろと両手を差し出してきた。風間は動揺しつつも、その両手を握った。
小さい。
なまえはただでさえ小さいので、それ相応に手も小さかった。全体的に華奢である。
それに比べて、風間の手は大きかった。故に、なまえの手は風間の手にすっぽりと包み込まれている。


「こうしていると……」


ふとなまえが口を開く。


「落ち着くらしいです」
「らしい?」


顔を上げると「はい!」となまえの笑顔が見えた。
その笑顔に、風間の心臓が高鳴る。


「昔、聞いた話なのですが、人間は、人肌を感じて甘えていると、いつの間にか元気になれるそうなんです」


なまえは目を伏せながら、ゆったりとした口調でそう言った。
伏せた目を縁取る、まつげの長さ。
言葉を発するときの、ほほえみ。
優しい声。


初めて見るなまえの表情だった。
夕日に照らされたその表情に風間は――しばらく見とれていた。


「ふう……だいぶ落ち着きました。ありがとうございます」


す、となまえが手を引っ込める。
風間は滑る指先に、思わず名残惜しさを感じた。


「よし!これで“守護霊様占い”も大丈夫そうです。では、」


よろしくお願い致します。となまえは頭を下げた。







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なまえさんの副交感神経が仕事をした様です。

そして前回「守護霊占いが始まります」とかいう大嘘を書いてしまいましたね。
次回こそは、
次回こそは始まります。いえ、始めましょうよ。私!







    

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