サマーメモリーズ
□15.
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そう長く散歩する訳にもいかず、早めに引き返すことにした。
ハヤテはなまえの横にぴったりくっ付いて歩きながら、なまえをチラチラと見上げている。
「ハヤテは本当に、なまえが好きだね」
「えっ?」
なまえが理一を見上げる。
「そうなの?」
なまえがハヤテを見下ろせば、「目が合った!」と言わんばかりにブンブンとしっぽを振る。なまえはキュンと眉を寄せて、「ハヤテ可愛いー大好きー」と惜しみなく口にしてぎゅうッと抱きしめる。
「なまえは犬に対しては素直だなぁ」
隣に屈んで、一緒に撫でる。
「……何で私を撫でてんの?」
「え?」
えじゃないよ何で本気で目丸くしてんの?ねーハヤテ。普通撫でるなら君だよねー。
びよーんと頬を伸ばしてみても、ハッハッと言うばかりで答えは返ってこない。
「今日はどんな夕食になるんだろ」
ハヤテを撫でていたなまえが、不意にそんなことを口にした。
「どうして?」
「だって夏希のフィアンセ君も同席だから」
「あぁ、」
確かに、と理一は頷く。
「翔太が良い顔しないだろうね」
「あー、翔太兄ぃね」
二人で苦笑する。
「そういえば、なまえ」
「うん?」
「健二君の事前から知ってるって、本当?」
なまえは危うく、息が詰まりかけた。
何とか自然に振る舞う。
「(まさかの栄お婆ちゃん以外の攻撃。うまく切り抜けないと……)本当だよ、数年前から仲良くしてもらってて……」
「……ふーん、」
視線を感じた。
え?何?私は何かミスをしただろうか?
「何回も、会ったことあるし」
それ以上、どう誤魔化していいのか解らなかった。……しまった!私は彼の過去や生い立ちを良く知らない。知らないし、そこら辺の設定が甘かった……!
「良い人って言ってたけど」
「う、ん」
なまえは、理一に初めて健二について話した時のことを、急いで思い出す。「良い人」と確かに言った。
「それ以外は?」
「……んー、っと」
軽く、唸る。
昔からの知り合い、という事に信憑性を持たせるためには、えっと……
焦った。だけど、
『どんな人』
急いで思い出す。
すぐに慌てて、
赤くなって、
変な声で返事して、
―――でも、
すごく、
「すっごく、優しい人―――」
なまえは自然と、口からそんな言葉が出た。
ふと力が抜けて、柔らかく微笑んでいた。
―――本心だった。
理一は小さく、口を開いた。
その微笑みが脳裏に焼き付く。
……そんな自分に、苦笑した。
「(……なんだかなぁ……)」
うーんと、理一は頬を掻いた。
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