サマーメモリーズ
□27.
1ページ/1ページ
着替えを済ませたなまえは、自分の携帯を睨みながら井戸へやってきた。
「……おかしいな……OZ、動作遅くなる事なかったのに」
まぁいいや、となまえ携帯を閉じた。
そこでふと、水音が聞こえた。
顔を上げると
「あれっ、佳主馬」
「なまえ姉」
先客が居た。
なまえは気の抜けるような声であいさつをする。
「おはよう、早いね?」
「なまえ姉に至っては以外だね?」
「わお」
佳主馬は年々私に対する意地悪さが増してきた気がする。意地悪な顔で笑うのだ。
昔はぎゅっと抱きついてくるとかそんなことあったのに今は無いからね。理由を問えば「子供扱いしないでよ、」らしい。
「小林拳の練習?」
「うん、軽くだったけど。」
「そうなんだ。じゃあもうちょっと早く来ればよかったな」
「?」
「だって鍛えてる時の佳主馬君、かっこいいから」
「(!)」
何でもない表情で顔を洗っているなまえの横で、佳主馬が硬直した。
目を見開いて髪を逆立たせて、真っ赤になっている。
なまえは別に、おちょくっている訳ではなかった。
本当の事なのだ。
いじめられても泣き寝入りをするのではなく、悔し涙をこらえ負けじと己を鍛える姿は本当にかっこいいと思った。
「ばっ、馬鹿にしてる?」
「うん!?まさか」
なんでそんな風に全力で否定するのああもう顔赤くなるじゃん馬鹿なまえ姉の馬鹿。しかも歯磨き粉地面に落ちちゃってるし。
ブスッと睨んだ矢先に、ふとなまえのポケットに目が行った。携帯が入っている。
「ずっと変わらないね」
「ん?」
「その携帯。」
「あー、もう5年も経つね」
佳主馬は驚いた表情になる。
「替えないの?」
「うーん、ずっと壊れるまでは使い続けるかなぁ」
これは、高校受験合格のお祝いとして、理一お兄ちゃんに買ってもらったものだった。
白の、とてもシンプルなデザイン。
物凄く嬉しかったのを、今でも覚えている。
大きな手で、優しく撫でてくれた事
おめでてとう、というその声、笑顔
全部全部覚えている。
あれからもう、5年経ったのか―――
携帯を開きぼんやり眺めていたなまえが、唐突に眉を顰めた。
OZの動作は通常に戻ったようだけど……どうも様子がおかしい。
「どうかした?」
佳主馬は洗った顔を拭きながらなまえを見上げた。
「まぁ、ね」
「厭な事?」
携帯を睨んでいるなまえに、佳主馬が眉を潜める。心配になったのだ。
「厭、というか……」
しっくりこないような表情のなまえ。では別に「厭」とは少し違う事なのだろうと、佳主馬は小さくほっとする。
「ねぇ佳主馬、昨日の夜OZで何か変化とかなかった?」
「変化……?」
「うん。よく解らないけど……様子が変だったから」
「夜は、何もなかった」
「OZ」「変化」という聞きなれない単語の組み合わせに、佳主馬は真剣な表情でなまえを見上げた。
なまえはその視線に気付き「あのね、」と言ってOZの不具合について話す。
「今は(多分)大丈夫みたいだけど……」
「一応見に行ってみよう」
「んー……」
なまえは「適当にいいんじゃない?」という表情をしている。単刀直入に言うと、「面倒です」という表情。佳主馬は厳しく眉をひそめる。
「なまえ姉には危機管理能力とか無いの?」
「あるよ!」
「無いよ!全く無いからそんな顔出来るんでしょ」
「佳主馬くん頼もしいー」
「ほら、すぐそうやって誤魔化す!」
佳主馬がズイズイと詰め寄る。なまえは両手で降参ポーズをとっては目をそらしている。
「いいから来るっ」
「ぉわっ」
佳主馬は流そうとするなまえの手を取って、いつもの納戸を目指した。
●●