サマーメモリーズ
□35.
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辺りを包んだ煙に、偽ケンジは咳き込む。そして、HPが半分かそれ以上残っている為、立ち上がろうとした。しかし、体は思うように動かない。
巨大な本に、体を挿まれていたのだ。
何とか抜けようともがいていると、カチッと小さな音がした。
煙が薄らぎ、目の前に足が見えた。
見上げると、ハンドガンを構えているナマエの姿。
その銃口は、偽ケンジの額に突き付けられていた。
「なまえさん、凄い……」
健二の言葉に、なまえは首を振った。
「それでも佳主馬ようにスムーズにはいかないさ。世界チャンピオンともなれば、スピードもパワーも桁違いだからね。」
さあ、となまえは偽ケンジを見た。
――後は、HPをギリギリまで奪うだけ。
ぐっと人差し指に、力を込めた時、
「あ!ユカイハンとその協力者みっけ!」
「まとめてタイホだ!」
その声に「えっ?」と健二が振り返る。
予期せぬ声にピクリ反応し、遅れてなまえも振り返ろうとした。
その矢先、
「「タイホだーッ!!」」
「っ!?」
なまえの背に強い衝撃。
二人に抱きつくようにタックルされたのだ。両手で携帯を握っているなまえ。その上膝立ちの状態な為、受け身なんて取る事は出来ず、目の前に座る健二を巻き込んで倒れ込んだ。
その時……
何か、厭な音がした。
***
「おわっ!」
なまえに倒れ込まれ、健二は抱きつかれる形で共に倒れた。
なまえさんは華奢で、けれどもふわりと柔らかい。
……柔らか……い?
何かに気付いてしまった僕は、見る見るうちに心拍数が上昇する。
「あのっ、ちょ、ちょっと!」
子供2人となまえさん。合計三人の人物に伸しかかられてという状態も苦しいけど、それよりも、近いを越えて密着してしまっている状態がなにより苦しい!
「ユカイハン茹でられたみたい!」
「きゃははははっ!」
きゃはははは、じゃないから面白くないからっ!!
あああ早くそこを退けてもらわないともう、本当に心臓が爆発してしまうんじゃないかなとか思うけどなまえさんはピクリとも動かないし!
本当に、ピクリとも―――
……あれ……なまえ、さん……?
ほんの微かに、震えている。
異常を感じた健二は、神妙な面もちでなまえの肩に手を添え支える。そして空いたもう片方の手で自分の上半身を起こす。
それでもなまえさんは、うつむいたまま、顔を上げず……否、何かを、凝視している……?
健二はゆっくりと、その視線を辿る。
両手で握りしめられている、
そこには―――
真っ二つに折れた、携帯電話。