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□07,
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2年前 池袋 来良総合医科大学病院


少年の目に映るのは、一つの白い塊だった。
ガラスを隔てた奥に見える、雪のように白い光景。
掛けられているシーツ。
敷かれているシーツ。
それらを載せるベッドのパイプも、
取り囲む天井も壁も、
周囲に置かれた機器の数々さえも。
ただ、ただ、白かった。


白い中にぽっかりと浮かぶ肌色と黒には、やはり白いチューブが繋がっている。
その色づいた点が一つの大きな瞳のようで、少年は、巨大な一つの瞳がこちらを覗き込んでいるかのように思えた。
白の中に浮かぶ点――少年と同い年ぐらいの少女の顔は、目も開かずに天井を見ているままだった。


己を縛る罪悪感の余り、寧ろその錯覚の眼に自分を責め立てて欲しいとすら思っていた。
しかし、ベッドの少女は残酷な程に何も言わない。
それどころか、何かを聞くことも、瞼を開いて物を見ることもできない状態だ。
声をかける事すらできない状態に置かれている少年は、ただ、怯えるように肩を震わせる。



「やあ、良かったねぇ」



そんな背にかけられた声は、場の空気と微塵も符合しないものだった。
少年は声の方を振り返りもせず、ギリリと己の歯を嚼み鳴らす。
殺意とも取れる気配を放つ少年に対し、声の主は尚も場違いな声を投げ掛ける。


「死ななかったんだって?僥倖じゃないか。生きてさえいればなんとでもなる」


「臨也……さん……」


返す声には、明らかな怒気が含まれていた。それでも少年が背後の男――折原臨也に殴りかからないのは、怒りの矛先を向けるべきなのは自分自身なのだと理解していたからだ。
その心を読み取ったかのように、白い病院の中ではっきりと浮き上がる黒服を纏った臨也が、爽やかな笑顔と共に口を開く。


「君は頭がいいねぇ。だから好きさ。彼女があんな状態になった原因が自分にあるとよく解っている。感情に呑まれて俺に殴りかかってこなかった事は賞賛に値するよ」


臨也の言葉が終わるか終わらないかの内に、少年は臨也に飛びかかっていた。病院の中だという事を理解しながらも、今度は怒りを止める理由が見当たらなかった。
だが、臨也は少年の渾身の拳を紙一重でかわすと、そのまま足をかけて相手のバランスを破壊する。よろめいた少年の腕をとり、そのまま回転させるように地面へと転ばせた。音も衝撃もなく、まるで散った葉が地面に舞い落ちるように。


いつの間にか腰を地面に落とされていた少年は、呆然としながら眼前の男を仰ぎ見る。
見上げられる形となった臨也は、少し陰のある笑顔と共に口を開いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
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