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「いやいやいや、ゴメンねぇ、時間とらせちゃって。どっか行く予定だったんでしょ?」
「いえ、そんな急ぎの用事でも無いので……」
突然気を使われた事に動転して、帝人は慌てて首を横に振った。
「いやいや、いいっていいって、悪いね紀田君、時間とらせちゃってさ」
「じゃあ私達はそろそろ行くわね。バァイ」
優佳は手を振って見送ると正臣に手を引かれて歩き出した。
♂♀
本屋に行ったあと帝人はいろいろ疑問を持っていた。
「紀田君、昔と変わったね」
「え?」
正臣は振り返ると帝人を見て疑問な表情を浮かべた。
優佳は正臣の表情と帝人の表情を見比べた。
「なにが変わったんだ?」
「ナンパしなくなった」
その瞬間優佳は横目で正臣を軽く睨んだ。
「小鳥遊さんと付き合ってから紀田君変わった気がする。見てても分かるよ、紀田君小鳥遊さんが本当に大切なんだね。こんなに過保護にな紀田君初めて見た」
「……そうだと嬉しいな」
優佳が無意識に呟いた言葉に2人は聞き直すように言葉を返したが優佳は焦ったように顔を上げた
「あ、ううん!なんでもないよ」
「俺は優佳が一番好きだから安心しろよ」
正臣は自信に満ちた表情で答えた。
♂♀
少し歩いていると帝人が見渡していた建物よりも目立つ存在が目に入る。
「え?」
それはこの通りで多く見かける黒人の客引きなのだが――異様なのはその姿だった。身長は2メートルを越えると思われ、まるでプロレスラーのように太い筋肉がついている。更に目を引いたのは、その黒人が板前の様な衣装を着て客引きをしている事だった。
目を丸くしていると、不意に巨漢がこちらを向いて目が合ってしまった。
「オニイサン、ヒサシブリ」
「! ? ! !?」
初対面なのに再開の挨拶を交わされ、帝人はどう反応していいのか解らなかったが、優佳が「大丈夫だよ」と言ってくれたため少しばかりか帝人は安心した。
「サイモン、久しぶりじゃんよー!元気にしてた?」
正臣が助け船を出すように返事をして、相手の注意が完全に帝人から移動した。
「ンー、キダ、ユウカ、寿司喰ウ、イイヨ。ヤスクするヨ。スシはイイヨ?」
「あー、金無いから今日は勘弁。今度高校に入ったからバイトするよ俺。そんでお金入ったら喰うからサービスしてよ」
サイモンはあまり納得しないまま正臣から視線を外し、優佳に声をかけた。
「ンー、ユウカハ寿司喰ウ?」
「私はあるけど流石にみんなに奢るお金は無いから無理かな。またお金入ったら食べるから私にもサービスしてね」
「オー、ダメ。ソレシタラ、私ロシアの大地の藻屑にキエルよ」
「大地なのに藻屑かよ」
静かに笑いながら会話を続け、正臣が適当なところで切ってその場を後にした。優佳は正臣に引っ張られるように歩いていて、帝人も慌ててその後についていった。
「今の人も知り合い?」
「サイモンって言ってね、ロシア系の黒人でロシア人がやってる寿司屋の客引きやってるんだよ」
――ロシア系の黒人?
「小鳥遊さん、御免、どこから突っ込むべき?」