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□04,
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「ほら、教師としては、生徒の頼りになる存在になりたいんだよ。その為には、まず先生の事を信頼してくれないとなあ」


優佳は下を向いてスカートをぎゅっと掴んだ。早くこの瞬間が終わってほしい。
早く話が終わってほしい。


「俺もたくさんの生徒を見てきたが、小鳥遊の事は少し心配なんだよ……。なあ?」


教師――那須島隆志は、優佳の肩に無遠慮に手を置きながら、気を使うような仕草で少女の顔を覗き込んだ。もっとも『気を使うような仕草』だと思っているのは那須島本人だけだったのだが。


「お前はいつも元気だが、無理して笑ったりしてないか教師としては心配なんだよ。A組の担任の北駒先生は気難しい人だし、お前らの担任の佐藤先生は生徒のゴタゴタなんか気付いちゃいないし、D組の――」


優佳も流石に嫌気が差し振り払おうとした瞬間――


「那須島センセー。セクハラっすかぁ?」


軽薄な声だが怒りがこもっている声が廊下に響き、那須島の身体が激しく硬直する。


「あッ……」


少女の肩を掴む手に力が入り、強く握られた優佳は思わず声をあげてしまう。


「わお。俺のいたいけな美少女に声まで出させて。いよいよ本格的なセクシャル・ハラスメントってやつっすか。でもセクシャルだのハラスメントだのわけわかんなくないっすかぁ?寧ろ判りやすくセクシー・ハラショーっすかぁー?英語とロシア語混作戦で東西冷戦終結っすかぁー?」


「き、紀田!ふざけるんじゃあない!」


那須島はあわてて優佳から手を放し、背後を振り返りながら叱責の声をあげる。
それに釣られて優佳が振り返ると、そこには彼氏の――一年B組の紀田正臣が廊下に姿を現していた。
気配は、無かった筈だ。
しかし、現に今、正臣は廊下に存在している。


ただし――上半身だけ。
足は教室の中に残しながら、身体を斜めにして上半身だけを廊下に覗かせている。
小学生がやるような仕草に緊張感もほぐれたが、廊下には先刻以上に微妙な空気が流れ始めた。正臣が何をどこまで見ていたのかによって、それぞれの立ち位置は大きく変わってくる。


少なくとも廊下に誰もいなかった事から、おそらくは教室の中から様子をうかがっていたのだろう。
どちらにせよ、那須島が優佳の肩に手を置いていたのを見られたのは確かだった。
だか、それだけならばまだいいわけのしようがある。単なるスキンシップだと言い張ればいい。


那須島はそう判断したのだが―――彼が口を開く前に、正臣は那須島を睨みながら近づいてきて優佳を那須島から放したあと優佳の背中に正臣が後ろから覆い被さるように抱きながら、正臣は目を細めながら小さく笑う。
 
 
 
 
 
 
 
 
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