drrr!

□07,
2ページ/7ページ



「正解」


「……」


「今のは俺に怒りを向けて当然だ。明らかに俺は悪意を持って君をからかったわけだから」


臨也は全く反省した様子を見せず、クスクスと笑いながら人差し指を口の前に添えて――


「でも、ここはほら、病院だから。静かにしてなきゃ駄目だよ」


どこまでも人を食った言葉を告げると、病室の少女に目を向ける。


「意識不明、か。眼を覚ますといいねぇ。それを一番に望んでいるのは、君なんだから」


「……どういう……意味っすか……」


一瞬の間を置いて絞り出された言葉には、先刻よりも怒りが薄れ、代わりに怯えの色が浮き彫りとなっていた。


「どういう意味か?解ってる癖に。そうやって気持ちを隠そうとしている逃避行動の一環かい?君は恐いんだろ?彼女が目を覚ましたら、その結果について、彼女がどう答えるか」


「……」


「だけど、仮にこのまま死んだとしたらどうだろう?それこそ伝えられなかった罪悪感に塗れて生きる事になるのかな? まあ、そうなるだろうね、君の性格だと。」


「……」


黙り込んでしまった少年に、臨也は優しく振り返り、温かい声を投げかける。
しかし――その声とは裏腹に言葉の内容は、全く温かいものではなかった。


「今の状況から逃げられないって、どう足掻いても。どこに行こうが過去はついて回る。たとえ君が全てを忘れようとも、あるいは死んで消えてなくなってしまおうと、過去って奴はおかまい無しに君の事を追い回す。もちろん……三ヶ島沙樹と別れたことも、ひたすらひたすらひたすらひたすら。……なんでだか解るかい?」


肩を竦め、自らもお手上げだという意味のジェスチャーを添える臨也。


「寂しいからさ。過去や思い出や結果って奴は、とても寂しがり屋な連中でねぇ」


一旦言葉を切り、臨也は壁に寄りかかってどこか遠くへと視線を向ける。
そして独り言のように言葉の続きを吐き出した。


「俺はね、神様って信じてないんだよ。存在が確定してないからね」


「……」


「未来でさえ確定してない世の中で、過去は確かに存在した大いなる存在だ」


壮大に聞こえる言葉を、臨也は淡々と語り続ける。
 
 
 
 
 
 
 
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ