短編

橋の真ん中
1ページ/1ページ


小さなせせらぎと傘に雪がすれる音だけが僕の耳には聞こえた。

小さな橋の真ん中。
本当に細やかな川が僕の下を通る。
端から見れば、身投げをするように見えるかも知れないが、僕はけしてそんなことはしない。

ほんのりと街灯に照らされたこの橋が、僕の密やかな安らぎの場。
ここに来ると、なんとなく心が落ち着く。
もう日が落ちているから、人も車もあまり通らない。そもそも、住宅街に囲まれたこの橋を通る人間など、ほとんど存在しない。

一人になれる場所。
最近は、他人に囲まれて過ごすことが多いような気がする。その分、気も使う。仲の良い友達といることさえ、億劫に感じるようになった。
他人とふれあうことで感じる不安。そんな不安に少しずつ敏感になっていく自分にも嫌気がさしてきた。

そんなこと思わなければいいのに。
いちいち気にしなければいいのに。

わかってるけれど、僕はどうも不器用だ。
そう思えば思うほど、落ち着かなくなる。

そんなときに、ここへ来る。

小さな橋の真ん中。
形のない水の上に僕は立つ。他人の手によって造られた道の上。どちらともつかぬ、丁度真ん中。
端から見れば、身投げをするように見えるかも知れないが、僕はけしてそんなことはしない。
僕は生きるためにここに来る。
死にたくないからここに来る。

この世の中は、生きづらかった。
一人になりたい。学校も、友達も、家族も、全部捨てて一人になりたい。
たった一日でもよかった。リセットする時間が欲しかった。
けれど、今の時代、そんなことは許されなかった。自分も、少し怖かった。
そう、この世の中は、僕には生きづらかった。
それだけなんだ。


「帰ろう。」


白い息が、川と重なる。
雪が降っても、川は流れていた。川だけが流れていた。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ