刀神
□参ノ太刀
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「れ……リグ、クライン。
ちょっと来い」
キリトは僕とクラインの手を引き、人垣の外へ出てそのまま適当な裏路地に入った
『……クライン、いつまで呆けてる』
隣で未だに魂の抜けたような顔をしているクラインを肘でつつく
「お、おう……」
『まったく……
で、キリト?
こんな所に連れてきてどうしたの?』
「2人とも、よく聞いてくれ。
俺はすぐこの町を出て次の村へ向かう。
お前らも一緒に来い」
キリトの言葉にクラインが目を見開く
「アイツの言葉が全部本当なら、これからこの世界で生き残っていくためには、ひたすら自分を強化しなきゃならない。
お前らも重々承知だろうけど、MMORPGってのはプレイヤー間のリソースの奪い合いなんだ。
システムが供給する限られた金とアイテムと経験値を、より多く獲得した奴だけが強くなれる。
…………この《はじまりの街》の周辺のフィールドは、同じことを考える連中に狩り尽くされて、すぐに枯渇するだろう。
モンスターの再湧出(リポップ)をひたすら探し回るハメになる。
今のうちに次の村に拠点を移した方がいい。
俺とリグは、道も危険なポイントも全部知ってるから、レベル1の今でも安全に辿り着ける」
『(……説明乙;;)』
彼にしては珍しく長ったらしい台詞に心の内で労いの言葉を呟く。
キリトの言葉を聞き終えた数秒後、クラインは僅かに顔を歪めた
「でも……でもよ。前に言ったろ。
おりゃ、他のゲームでダチだった奴らと一緒に徹夜で並んでソフト買ったんだ。
そいつらももうログインして、さっきの広場にいるはずだ。
置いて……いけねぇ」
「………………」
『(……優しいな、クラインは)』
彼は自分だけでなくその友達全員も一緒に連れて行くことを望んでいる。
この異常事態においても
友達は危険な状況に残しても自分だけは安全に……
という思考は最初から無いのだろう。
だが、それに頷くことはできない。
クライン1人なら好戦的(アクティブ)なモンスターから守りながらでも安全に進めるだろうが、あと2人……いや、1人でも増えれば危険度は段違いになる。
そしてもし、それで誰かが死んだりしたらその責は……─────
そんな思考を明敏に読み取ったのか、クラインが強張った笑みを浮かべて首を振る
「いや……おめぇらにそこまで世話になるわけにはいかねぇよな。
オレだって、前のゲームじゃギルドのアタマ張ってたんだしよ。
大丈夫。今まで教わったテクで何とかしてみせら。
それに……これが全部悪趣味な演出のイベントですぐにログアウトできるっつう可能性もまだあるしな。
だから、おめぇらは気にせず次の村に行ってくれ」
「………………」
『そっか……なら、ここで別れよう』
「っ蓮!?」
『その代わり、約束。絶対死ぬな』
そう言ってクラインの手に1枚の羊皮紙を押し付ける
「おっ?」
『それ、いちおうβ時代のポイントとかマークしてるから、あげるよ』
「お、おう……
……って、お前はどうすんだ?」
『キリトと行くよ』
「!?」
「そっか。気ぃつけてな?」
『クラインこそ』
「れ……ん……?」
『?なに』
「いい、のか……?」
『いいも何も、“来い”と言ったのはキリトだろう?
早く拠点を次の村に移すって考えには賛成だし、危なっかしくてキミを1人になんてできないしね』
最後の言葉が苦笑混じりになる。
彼の危なっかしさは長年の付き合いで熟知している
「そ、そっか;;
……俺、そんな危なっかしい?」
『うん、かなり』
「はは……;;
……じゃ、クライン。またな」
『何かあったらいつでもメッセージ飛ばして』
「ああ」
クラインに軽く手を振り、体を北西────────次の拠点となる村がある方向へ向ける。
5歩程歩いたところで背中に声がかけられた
「おい、キリトよ!
お前本物は案外カワイイ顔してんな!
結構好みだぜ、オレ!!
それとリグ!
お前、本物は女だったんだな!
綺麗な顔してんじゃねぇか!
これが現実世界なら一緒にメシでも行きてぇくらいだぜ!!」
『「な…………」』
唐突な言葉に一瞬僕もキリトもポカンとする。
が、すぐ我に返り同時に苦笑しながら背中越しに叫び返す
「お前もその野武士ヅラの方が10倍似合ってるよ!」
『寝言は寝て言え。
…………まぁ、食事くらいなら考えてやらなくもないけど』
「な…………!?;」
「マジで?やりぃ!」
後半は呟き程度の声だったのだが、2人には聞こえていたらしい
『(聞こえてたのか!?;;)
たっただし!
僕は約束を守らないヤツは嫌いだぞ!
さっきの約束守らなかったらただじゃ済まさないからな!!』
柄にもなく大声を出す僕に2人揃って笑い出す
「ぷっ……お前の大声なんて、聞いたのいつ以来だよ」
「くっくっく…………まさかそこまで言われるとはなぁ」
『わ、笑うなよ;;
それより、分かってるんだろうな』
念を押す僕に、クラインは笑いながらも“おう”と言ってくれた
「じゃ」
「ああ。2人とも気ぃつけろよ」
『キミもね』
今度こそクラインに背を向け歩き出す。
しばらく歩き《はじまりの街》の西口ゲートに着いた時、それまで黙っていたキリトが口を開いた
「蓮……」
『んー?』
「俺……もうお前に、ケガ、させないから……」
『!……和人、ここ仮想世界なんだが、どうやってケガしろと?(呆)』
というかやっぱまだ気にしてたなお前
「それは、そうだけど……
けど、もう蓮を危険な目には遭わせたくないんだ……
だから、頼むから、蓮も無茶はしないでくれ……」
うん、たぶんそれは無理。
危険な状況とかむしろ大好きですがなにか?←
まぁ流石にそんなこと言わないけどね
『僕は僕の好きなようにやるよ』
「なん……『だから』!」
キリトが話すのに被せるように言葉を続ける
『だから、キリトもキリトの好きなようにすればいいよ』
僕に対する不必要な罪悪感を感じて戦うのも、キミがそれで強くなれるというならそれはそれでいいだろう。
それが重荷になるというなら、僕がキミから離れればいいだけだ
「分かっ……た……」
『んじゃ、行こうか』
こうして僕らは《デスゲーム》への第一歩を踏み出した…………