時渡

□第3章
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バシャ・・・バシャ・・・

一歩ずつ歩を進める度に足下の水が跳ねる。

水は少し粘度が高くて、足に纏わり付いてくる。

周りは真っ暗で、とても鉄臭い。



━━━━どこだ、ここ…
なんで僕はこんな所に…━━━━

『くっ…クククッ』

自分の口から自分の物とは思えない嗤い声が漏れる。

どうして嗤っているのか、自分でも全く分からない。



バシャ・・・










ガシッ


『!……』

“なにか”に足を掴まれる。

いや、掴まれてる時点で“誰か”の方が正しいか。

その“誰か”は、たぶん僕と大して年の変わらない少女。

全身真っ赤に染まってる。

赤の隙間からは僅かに緑が見える。

鉄の匂いに混じって、風の匂いがした。


そして……



「ネ………ル………」

少女が口を開き僕の名を呼ぶ。

『くっ…クククッ、ははははっ!』

少女を見て狂ったように嗤う。

━━━━なんで、サリアが…━━━━

朱に染まりながら僕の名を呼んだのは、僕にその名前をくれた人だった。

「ネ…ル…なん、で…?」

━━━━それは僕が聞きたいよ!
なんでサリアが…っ!!━━━━

しかし、その疑問が言葉になることはない。

僕はただ……

『はは、はははははっ!』

ただ、嗤うだけ。



ガシャ・・・



僕は右手が何かを握っていることに気付いた。

それは……


━━━━剣……?━━━━


真っ黒な、影で造られた剣。
間違いなく僕が造った物。

僕はそれを真っ直ぐに振り上げる。



━━━━おい…━━━━


「ネ、ル……」



呟くように小さい声で僕を呼ぶ



━━━━待て…━━━━



僅かに上げられた朱く染まった顔…



━━━━待てよ…━━━━



その目は虚ろでどこも見てなくて…



━━━━やめろ…━━━━



振り上げられたその腕がどうなるかなんて、そんなの分かりきったことで…




━━━━やめろッ!!━━━━



ザンッ



━━━━ ─────ッッ!! ━━━━


当然のように振り下ろされたそれは、寸分違わず彼女を斬り裂いた。


━━━━う、あ…━━━━


まるでそれが合図だったように周りが明るくなる。

今まで見えなかったものが見えてくる。

眼前に見えるのは見たことがあって見たこと無い場所。

緑全てが朱く染まった…


━━━━コキリの、森…━━━━


生き物の気配が全然しない、変わり果てたコキリの森。


ビチャ・・・ッ


『!ククッ……』


足下に溜まっていた水の正体、それは中途半端に固まった血だった。

そして、その中に倒れているのは言わずもがな…


━━━━みんな…っ━━━━


ついさっき、自らの手で斬り捨てたサリア。

それ以外にもミドやファド、物知り兄弟や道具屋で店番をしていた少年。

そして光を失った彼らの妖精たち…


━━━━ なんで…… ━━━━


その時、僕が嗤い声以外の声を発した。

『ククッ…1人、足りないな』

━━━━ !! ━━━━

そう、これだけのコキリがいても、1人足りていない。

それは…


「ネル…ッ!」

『!ククッ…出てきたのか』

━━━━リンクッ!━━━━


足りなかった最後の1人。

僕を最初に助けてくれた少年、リンク。

震える手でデクの棒をこちらに向けて、サリアの隣に立っている

「なんで…
なんでこんなことするの!?」

『クククッ…さぁね』

リンクの問いを聞き流し、剣を構える。


━━━━!まさか…っ━━━━


『捜す手間が省けて有り難いよ』

ザンッ

「うわあっ!」

初撃でデクの棒を破壊し、そのまま手首を返して剣を振り抜くと、リンクの左腕が吹き飛ぶ

「っあ゙あ゙ぁああぁあ゙ぁぁあ゙っ!!」

━━━━ ────ッ!!━━━━

『クククッ、出てこなければ助かったかもしれないのに何故出てきた?』

「ぐ、うぅ…だ、だって…」

『ん?』

「ねる…ないて、るから…」

『はぁ?』

そこで気付いた。

声では嗤っている僕の頬が濡れていることに。

「だから…ぼく、は…っ」

グラッ

『!』

ガシッ

倒れそうになるリンクの体を支える。


「っ…ねる…?」

『…大丈夫?』

先程までの嗤いを消し、リンクに声をかける。

その声は普段の、僕のよく知る僕の声だ。


「っつ…へいき…」

『…クククッ、そうか』 


━━━━!やめろっ!!━━━━


ドスッ


「あ゙…っ ね、る……?」

『クククッ、甘いよ』

━━━━リンクッ!!━━━━


彼の体を無数の黒い刃が貫く。

彼と、僕の体の隙間にできた影から造られた影の刃。


ドサッとリンクが倒れ、地面の朱を更に濃いものにする。



『クッ…クククククッ、ははははははははっ!!』


━━━━あっ…ぁああぁああっ、ぅぁああぁああぁああっ!!━━━━


叫びと嗤いが重なってできた不協和音は

生き物のいなくなった森で

誰にも届かずに キ エ タ・・・━━━━━
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