蜩鳴

□〜其ノ参〜
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〜in 興宮〜

「まったく、みなさん遅いですわね!
何をしているんでございましょう!」

「みー、きっと圭一のせいだと思うのです」

[梨花…;;]

今日は興宮にあるおもちゃ屋で部活だ。

今までにも何度かあったが、今回も圭一たちは遅刻らしい。














やがて、チリンチリンと呼び鈴を鳴らしながら圭一たちの自転車がやってくるのが見えた。

「みなさま方〜!!
お待ちしてましてよ〜!!」

やっとみんなが来てくれて嬉しい沙都子が、口調だけは怒りながらも尻尾をパタパタ振りながら出迎える。

[あぅあぅ。
沙都子がかわいいのですよー]

「そこが飽きないのよ。
(クスクス)可愛すぎる」

沙都子の仕草に、ちょっと待たされた程度で荒みかけていた私の心がすぐに癒されてしまう。

まったく…

『“これだから沙都子は大好きなんだ”…ですか?』

[「Σわあっ!?;;」]

『(クスッ)おはよう、2人とも』

驚く私と羽入を見て面白そうに笑うのは当然恭輔だ。


……いつの間に後ろに立ったのだろう?

「い、いきなり後ろに立たないでよ!
あと、人の心勝手に代読しないで!!///」

『あれ、間違ってましたか?』

[当たっているから梨花は照れているのですよ、あぅ]

『成程、そういうことですか』

「うるさいわね///
事実なんだからいいでしょ、べつに」

『構いませんよ?
“沙都子がもう少し小さくてモフモフだったらぜひゲージの中で飼いたい”…
なんて思うのもキミの自由ですから』

「Σみ゙っ!?;;」

な、何故知っている恭輔…
たしかに思ってるが…←


「沙都子ちゃんに梨花ちゃん!
おっはよ〜う!」

「みー、おはようなのです」

「おーう!おはよう梨花ちゃん!
おい沙都子、警察が来る前にケリを付けるぞ!
目標は10億強奪だ!!」

「は?圭一さんの話が分かりませんわ」

『スルーでいいよ沙都子(苦笑)』

「遅くなったかな?
梨花ちゃんたちは今来たの?」

「今日は早く終わったので、大分待ってましたですよ」

魅音と詩音、レナ(ついでに恭輔)は沙都子がとある検査のために毎週日曜日に診療所で検査を受けていることを知っているのでこういう言い方で充分だった。

「あー、そりゃ悪いことしたわー」

「こっちは圭ちゃんたちがなかなか来なかったんですよねぇ」

「……(ジロッ)」

ジロリと恭輔を見る。

すると恭輔は肩をひょいと竦めながら言った。

『詩ぃ、それはボクじゃなくて圭兄のせいですよ。
魅ぃから電話がかかってこなければきっと昼まで寝てました』

……おのれ圭一。
お前が必ず遅刻してくる原因か。

「圭一なら仕方ないのですよ。
にぱ〜☆」

「ちょい待て。
俺が悪役になりゃ丸く収まるのかよ!?」

『え、今更そこ確認します?』

「もちろん圭一さんでなくては務まらない大役でしてよ?
をーっほっほ!」

「じ、実に嫌な大役だな。

…こんなので丸く収まると思ったら大間違いだぞー!」

圭一と沙都子がふざけながらはしゃぎあう。

沙都子が嘘泣きをしてレナが絡んできて必殺の一撃で圭一をズパーン!とノックアウトする。

うむ、いつもの展開。こういうのは何度繰り返してもいい。
お風呂上がりの牛乳みたいなものだ。


「う、うむ……やっぱりこれが正しい丸い収め方だよな…」

「「…前歯が欠ける前に新しいオチ探した方がいいと思うけどねー;;/思いますけどねー;;」」

『同感です』

伸びている圭一をみんなで笑い、それで私たちの朝の挨拶は終了した。


[今日もみんな元気なのです]

「元気に勝る宝は無いわね」

『[そんなこと言ってるとどんどん老けますよ/老けちゃうのです]』


ハモられた…;;

「うるさいな、誰のせいだと思ってんのよ。
当分、甘いもの食べるのやめるわよ」

[あ…あぅあぅあぅあぅあぅ…!!]

ただでさえ鬱陶しいヤツが余計鬱陶しくなる。
……苛め過ぎたか

「嘘よ。
冗談だからあまり引っ付かないで」

[あぅあぅあぅ…ごめんなさいなのです…あぅあぅあぅ]

『相変わらずの甘党ですね(苦笑)』

「いっつもコレよ」

羽入は甘いものに目がない。
しかし自分では食事ができないというややこしい存在だ。
恭輔はそれを知っている。

…というか知ったうえで羽入の前でアイスとか食べてるし;;
まあ私もよくやるけど…
(沙都子をおちょくる次くらいに楽しい)

ただ、その後私に対する甘いものの要求が酷くなることまで見越してやっている分恭輔のがタチが悪い









「み〜…」

「はぅう〜!
梨花ちゃん今日もご機嫌だね〜!
お持ち帰り〜!!」

「Σみ゙ぃっ!?;;」

ヒョイ

『はいはい、お持ち帰りは犯罪ですよ』

「あはは、恭ちゃんナイスwww」

「はぅう〜…」

レナの強奪が来る直前、恭輔が私をヒョイッと持ち上げたことでそれを回避。

まったく、この細い体のどこにこんな力があるというのか…


「魅音、店のおじさんが呼んでるぜー」

「あー、うん分かったー」

魅音が店に入っていくと、入れ替わりで沙都子が近付いてくる。

「梨花ぁ聞きまして!?
今日の部活、賞金が出るんだそうですのよ!?」

…思い出した。
たしか、魅音が自腹切って5万円を賞金にするんだっけ。
よくもそれだけの金額が張れるものだ。
それだけ賞金が高いとむしろ絶対に負けない策が充分に張り巡らされているのでは、と邪推してしまう。

「なんと5万円でしてよ!
5万円んん〜ッ!!」

「……………………」

沙都子と目が合う。


………………あ、いけない。



『へぇ、凄い額だね。ビックリだ。
ね?梨花』

「!み、みー…そうなのです。
ビックリしすぎてカチンコチンなのです
(恭輔ナイス…;;)」

この時、沙都子は5万円という高額賞金に私が驚きの声をあげることを期待していたのだ。

…普通の子ならまず間違いなく驚く。

だが私は“すでに知っていた”から驚かずにキョトンとしてしまった。

それを素早く察した恭輔が沙都子に怪しまれる前にフォローしてくれたのだ。

おかげで沙都子は何も疑問を抱かなかったらしい。

「そうですわよね!
私もビックリしましてよ!!」

「5万円もあればもうずっと使い切れないくらいのお醤油が買えますです」

『Σ何故醤油!?;;』

「お醤油を買ってきてと頼んでも面倒くさがる人がいるからに決まってるのですよ、にぱ〜☆」

『……ああ、成程ね(苦笑)』

「うぅう…
梨花って結構根に持ちますのね…;;」

『(むしろかなり持つタイプだと思いますが)』

[その通りなのです☆]

そこうるさい。

だが、彼のおかげで助かった。

「…(ボソッ)ありがとう」

小さな声で礼を言うとニッと笑顔が返ってきた。

[梨花…]

羽入が心配そうに声をかけてくる。

もちろんこの程度でへこたれてはいられない。

「(大丈夫よ)…みー。
レナだったら5万円で何を買いますですか?」

『きっとなにかかぁいい物を買うんでしょう?』

「うーん…
ケンタくん人形とか売ってもらえないのかなぁ。
フライドチキン屋さんに5万円持ってったら売ってくらいないかなぁ!はぅ」

…ケンタくん人形って、レナの好きなゴミ山に埋まってなかったっけ?
圭一連れてって掘った方が早いと思う←

『その5万で鎖切る工具と大八車買った方が早いと思いますよ』

恭輔、それは犯罪だ

「レナさんだったら素手で鎖を引き千切りかねませんわねぇ!」

「ホントですねぇ(笑)」

「はぅう〜!
沙都子ちゃんも詩ぃちゃんも酷い〜!」

…否定できないのがなんともな…;;

だってかぁいいモードなら余裕な気がするんだもの←
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