刀神
□弐ノ太刀
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「うおっしゃあああああ!」
派手なガッツポーズと共に叫ぶクラインに近付き、交互にハイタッチを交わす
「初勝利おめでとう」
『といっても、他のゲームならスライム相当だがな、アレは』
「え、マジかよ!
おりゃ中ボスかなんかだと……」
『「んなわけあるか」』
「こんなニュービーだらけのフィールドに中ボス配置とか運営どんな鬼畜だよ」
『もしそうなら一発で死亡確定だな(クラインが)』
「オレがかよ!」
叫ぶクラインに苦笑しながらキリトは背中の鞘に剣を収めた。
まぁ彼の喜びも理解できなくはない。
これまでの戦闘はクラインよりも知識・経験共に2ヶ月分上回る僕やキリトだけがモンスターを倒していたので、彼は今ようやく自分の剣で敵を粉砕する爽快感を味わうことができたのだ。
感動するのも当然だろう。
同じソードスキルを繰り出しては奇声を発する姿には若干引いてしまうのは否めないが……←
ふと隣を見ると、キリトがぐるりと周囲を見渡しており、僕もつられるように視線を巡らせた。
四方にひたすら広がる草原は仄かに赤みを帯び始めた陽光の下で美しく輝いている。
遥か北には森のシルエット。
南には湖面のきらめき。
東には街の城壁を薄くだが望むことができる。
そして西には、無限に続く空と金色に染まる雲の群れ。
巨大浮遊城《アインクラッド》第一層に存在するスタート地点《はじまりの街》の西側に広がるフィールドに僕らは立っている。
周囲には少なからぬ数のプレイヤーが同じようにモンスターと戦っているはずだが、空間の恐るべき広さ故か視界に他人の姿は無い。
ようやく満足したのか、クラインが腰の鞘に剣を戻しながら近付いてきて同じようにぐるっと視線を巡らせた。
「しっかしよ……こう何度見回しても信じられねぇな。
ここが《ゲームの中》なんてよう」
『“中”と言っても、べつに魂がゲーム世界に吸い込まれたわけじゃない。
僕らの脳が目や耳の代わりに見たり聞いたりしてるだけさ』
「《ナーヴギア》が電磁波に乗せて流し込んでくる情報をな」
僕の説明とキリトの補足にクラインは子供のように唇を尖らせた
「そりゃ、おめぇらはもう慣れてるんだろうけどよぉ。
おりゃこれが初の《フルダイブ》体験なんだぜ!
すっげぇよなぁ、まったく・・・
マジこの時代に生まれてよかったぜ!!」
『(“よかった”か……)』
この世界がこのまま“ただのゲーム”であったなら、誰もが間違いなくそう言えたのだろうが、これから始まる《デスゲーム》……
あれを経験して尚“よかった”と言えるのか……?
『(僕は言えるけどね。
集中できる物があれば精神的にかなりラクだし)』
何もしていない時は、どうしても前の世界のことを考えてしまう。
あの時掴めなかった手のことを……
そして自ずと手が刃物に伸びる。
べつに死にたいというわけではないのだが……
『(けど、流石に最初は驚いたなぁ)』
なんせ転生したのは前世で死ぬ直前に読んだ本の世界なのだ。
驚くなという方が無理だろう。
『(うーん……
こんなことになるなら流し読みじゃなくて熟読しておくべきだったな)』
本屋で見た時に立ち読みした程度な上に転生の影響なのかとても記憶が曖昧になっている。
ま、今更言っても仕方のないことではあるのだが……